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ユミルへの想い




■しおり■

しおり01「ユミルへの想い」
しおり02「褒め殺し作戦」
しおり03「風邪ひきユミル」
しおり04「MISSION:デートへ誘え!」
しおり05「ユミルとデート!」
源太郎さんのコメント



しおり01
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エレン「なぁ、アルミン。ユミルってさ……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エレン「すっげぇ、可愛くない?」

アルミン「…は?」

エレン「いやいやいや、だってお前さ…そばかすとか可愛いしさ、それにクリスタに向ける優しい顔とかもうやばいんだよなぁ~」ケラケラ

アルミン「………は?」

訓練終了後の自由時間。
巨人駆逐しか述べないぶっきらボーイがなんだかとんでもない事を言った瞬間である。

アルミン「エ、エレン?どうしたんだい急に…」

エレン「いやさ、なんつぅか。うちの104期生ってさ、女子が個性的じゃん」

アルミン「ん、まぁ、そうだね。それで?」

エレン「あぁ、それでな。ユミルは群を抜いて変わってると思うんだ。それで初めの頃からユミルのことずーっと見てたんだけど…なんか意外な一面いっぱい見ることになってさ。……それで、なんつうか、まぁ、惚れた」

アルミン「そ、そっかぁ…いやまって!ミカサやアニも変わってるよね?そっちには目を向けなかったの?」

エレン「あー…言われてみれば、変わってるかもなぁー…そんなに変って思わなかったけど…」

アルミン(…そうか!エレンってミカサで無口系女子の耐性がついてしまってるんだ…!)ハッ
アルミン(ましてやミカサは家族で、意識することもない…そして、ミカサで慣れてしまったエレンはアニに着目することもない…そもそも、色恋沙汰に興味があるなんて幼馴染の僕ですら…)

巨人駆逐が合言葉の死に急ぎ野郎エレン。
周囲からは、美形ではあるが、キレっぽい性格と言動の粗さから敬遠されている。
しかし、目標を持って懸命に努力している姿勢や、所々で思わぬ気遣いが出来る所から、一部の女子からは高く評価されており、エレンに恋心を抱く娘はかなりの数がいる。
そんなことエレンはつゆ知らず、ただ黙々と熱烈に訓練に励んでいる。

女子たちが向けるその評価は、幼馴染であるアルミンも同じであった。
周囲の人間よりはエレンのいい所をたくさん知っているが、ウォール・マリアが壊された日以来、(言い方はアレだが)以前よりも人間味を失ったとも思っている。巨人を倒すことだけを考える激情マシンのように…。

その境遇を考慮すれば当然だが、そんな彼がよもやユミルに興味をもつなんて夢にも思わなかったアルミンであった。
ミカサの想いを知っているアルミンは、当然己の胃袋にプレッシャーを感じざるを得ない。
一方エレンは、のほほんと遠方で雑談しているユミルとクリスタを眺めていた。

エレン「ん~…可愛いよなぁ…」ジィー

クリスタ「あ、エレンがこっち見てるよっ!」

ユミル「げ、何見てんだアイツ。気持ち悪ぃ」

クリスタ「もう!ユミルったら!…おーい、エレーン」ブンブン

エレン「うーす」ブンブン
エレン「はぁ…ユミル可愛い…」ボソッ

エレンの顔は、少しにやけており、いつものつり目が優しく垂れていた。
たとえエレンの幼馴染でなくとも、彼が本当にユミルに興味があると一目でわかってしまう顔をしていた。

アルミン「」
アルミン(ま、まずい…これはかなり重症だ…こんなところミカサに見られでもしたら…)

アルミンの予感は悪い方ほどよく当たる。
アルミンが事態の最悪のケースを危惧していると、背後に気配がした。

ミカサ「」

アルミン「」
アルミン(おった!おったでミカサ!)アワワワワ

エレン「おーミカサ!どうした?」

ミカサ「エ、エレン…ユミルがどうとか言ってたけど、えっと」オロオロ

ミカサは狼狽えつつも、エレンに質問する。

エレン「あー…うん。なんか可愛いなぁって…」

ミカサ「そう…惚れてる、わけではないよね」

エレン「ん?いや、惚れてるけど」

ミカサ「」

当然のごとく、即答。
アルミンの胃痛も、ミカサの想いも知らぬエレンは、核弾頭を間髪入れずぶち込んでしまう。
エレン「おっと、もう夕食まで時間ねぇじゃん。行くぞアルミン、ミカサ!」

エレン「……おい、行くぞ…?」

ミカサ「」

アルミン「えっと、うん。もう少ししたらいくから!先に行っててよエレン」
    (いい加減にしてくれよ本当…人の気も知らないで…)キリキリ

エレン「あ、あぁ。わかった。先行ってるわ」

ミカサ「…アルミン?」スッ

アルミン「…………はい」

ミカサ「…あれは一体…どういうこと…?」ゴゴゴゴ

アルミン「……………………はい」ハァ

怒気を纏うミカサは、いつもの如く、アルミンの胃袋を侵略しにやってくる。
結局、アルミンがミカサから解放されるのは、夕食が始まって15分経過した後である。
この世は弱肉強食。当然アルミンのパァンは、半分ほどサシャに齧られていた。

夕食後、しばらくして就寝時間が訪れようとしている。
食堂などで談話していた訓練兵一同は、ぞろぞろと兵舎へと戻っていき、眠りの支度を始める。
兵舎の中では、さっさと支度をして寝る者、雑談する者様々である。
そんな中、奇抜な連中が多いエレンたちの兵舎では、寝る気配を一向に見せず雑談に興じていた。

アルミン「そ、それでさエレン。さっきの話なんだけど…」

エレン「あ?えっと、なんだっけ」

アルミンはエレンのベッドの上で質問する。
ミカサのこともあって、アルミンは先程のことが気になって仕方がなかった。
アルミン「だ、だから!ユミルが好きだって話だよ…」

エレン「あー…うん。まぁ、そうなんだよ。俺はアイツが好きだ」

アルミン「そうなんだ…でも意外だな、エレンってそういうの興味ないかと思った」

エレン「む…いや、まぁ仕方ねぇか。今までそういう話しなかったし、そんな素振り見せたことなかったしな…」
エレン「でもな、一応俺だって年頃の男子だ。そういうことに興味が無いわけじゃない…ただな」

アルミン「うん」

エレン「俺は調査兵団志望だし、いつ死ぬかわからない。もちろん死ぬ気はさらさらないけどな」
エレン「そんなこの先の生死すら曖昧な奴が恋に興じていいわけがないんだ。自己満足で相手を悲しませる真似はしたくない…」

アルミン「それは!別に調査兵団じゃなくとも、内地でも生死の危機に晒されるかわからないよ!またあの超大型巨人が攻めてくれば、ここだって死の海になる!」

エレン「まぁ、そうなんだけどよ。そういうことじゃねぇんだ。内地の連中よりは調査兵団の方が圧倒的に死ぬ確率が高い。いくら強くても判断を誤ればすぐおっ死んじまう。俺が逆の立場だったら、絶対に恋人をそんなところに行かせたくねぇ!」

アルミン「エレン…」

エレン「…。それに、恋するほど俺には余裕が無い。憎い巨人を駆逐したくても、俺にはミカサのような才能も、アニのようなセンスもない。今はただ、ひたすらに訓練に励んで、巨人を倒すだけの技能を身につけなきゃならねぇ」 エレン「余裕もねぇし、いつ死ぬかもわからねぇ。そんな野郎の恋人になったら、あとは不幸になるだけだ…たとえ本人が望まずとも、必ず悲しみが訪れる…だから、俺はこの想いを伏せてるんだ」

アルミン「じゃぁなんで、僕やミカサに…」

エレン「あぁ、ん~…まぁ、どこかに吐きたかったのかもな…アルミンやミカサだったら、無闇矢鱈に言いふらさないだろうしな」

アルミン「そうだったのか…」
アルミン(びっくりした…昔から優しいところはあったけど、エレンがここまで人を察するなんて…幼馴染失格だな…)

エレン「あーぁ、言ったらスッキリしちまったぜ。ま、今は訓練に励むだけだ」ボフッ

そういうとエレンは自分の枕へ倒れこみ、欠伸をかいていた。
アルミンはエレンが思ったよりも真面目に恋について考えていたことに驚きつつも、その胸中には応援する気持ちが芽生えていた。

アルミン「エレン…僕は、そのまま閉まってちゃだめだと思う」

エレン「?…いや、お前に吐いたからスッキリしたよ。無かったことと思って、今は巨人のことだけを考えるわ」

アルミン「だから…スッキリしちゃだめだよ、なかったことにするなんて論外だっ…エレン、君はどこに所属するつもりだって?」

エレン「そりゃお前、調査兵団だって言っただろ?」

アルミン「あぁ、そうだ。いつ死ぬかもわからない兵団だろ?…だったら、後悔して死にたくないだろ?エレン、君はユミルに想いを伝えるべきだ」

エレン「だから、そりゃ自己満足になるって言っただろ!もし恋仲になったからって、俺がよくても相手がいつか絶対悲しむことになる!」

アルミン「わかってる。けど、自己満足でもいいじゃないか。それにその理屈だったら、仲間もいらないってことになる。恋人より親愛度は下がるけど、見知った人間が死ぬのは悲しい…なのになんでエレンはこの兵団で友達を作ったんだ…!」

エレン「それはお前ッ!………えっと…」

アルミン「ほら……本当は寂しかったんだろ。エレンだったら一人でも巨人に立ち向かうだろう…けど、エレンは意識してなかったかもしれないけど、寂しかったんだ。このまま誰かに覚えられないで消えていくのが怖かったんだよ」

エレン「…!」

アルミン「強がらなくていい、自分に素直になろうよエレン。そんな深く考えなくてもいいんだよ!…一時でも幸せを感じれたら、この時代では十分すぎるほどの幸運なんだ。例えエレンが死んだとしても、人はいつか死ぬ、別れが早いか遅いかだけなんだ」
アルミン「死んだ時、相手が幸せいっぱいの思い出で包まれてれば、悲しくても乗り越えられる…一番ダメなのは、幸せを感じず悔いて死ぬことだ。エレン、君には幸せになってほしいんだ。だからどうか、自分に素直になってくれ」

エレン「アルミン………」

アルミン(ごめんミカサ…君にも幸せになってほしい。けど…今のエレンは放っておけない…)

エレン「なんか、ごめんな…俺、巨人に目が行き過ぎて、自分が見えてなかったのかもしれない…少し、考えてみるよ」

アルミン「こっちこそごめん。強く言い過ぎた」

エレン「いや、いいんだ。俺は鈍いから、そう言ってくれないとわからないんだ…ありがとうアルミン」

アルミン「うん。…えっと、じゃぁとりあえず寝ようか?」

エレン「そう、だな。もうすぐ就寝時間だ。教官が来る前に寝よう」

アルミンはエレンにおやすみと言ったあと、自分のベッドへ戻った。
周囲の雑談はまだ続く中、エレンとアルミンは一足早い眠りについた。

ライナー「…」

ベルトルさん「…」

しおり02
------
翌日の朝食時。
アルミンは早速ユミルの様子をうかがうことにした。

アルミン「お、おはよう。ユミル」

ユミル「ん?あんだアルミン、珍しいな。おはよ」

アルミン「あはは、そうだね。いやさ、アルミンにしては早い朝食だなぁって思って。いつも少し遅めの朝食だったよね」

ユミル「あー…まぁ、なんとなく、だな。なんか今日は早く目が覚めちまってなぁ…」ファ-

アルミン「ふーん…あれ、クリスタは?一緒じゃないの?」

ユミル「んー?いや、熟睡してたっぽいから起こさなかった。一緒に食べたかったけど、なんか腹減りすぎて気持ち悪くてなぁ…」

アルミン「あ、そうなんだ。…というか、ユミルってお腹減りすぎると気持ち悪くなるタイプなんだ」

ユミル「は、そうだよ。悪いか?」

アルミン「悪くないよっ、ただエレンは手が震えるタイプだったからさ。ミカサは隙を見せなかったから、空腹のミカサとか見たことない」

ユミル「ハハ、アイツらしいや。エレンなんかジャンキーみてぇだな。食い物ジャンキーはサシャなのにな」ケラケラ

アルミンはユミルと他愛もない話をする。
朝の穏やかな時間は、普段接点のない二人の談笑を緩やかに促していく。

アルミン(…言葉の粗さから敬遠してたけど、ユミルって結構饒舌で明るいな…エレンが惹かれるのもわかったかも) アルミン(よし、この流れならさりげなく聞けるはず!)

アルミン「あ、そういえばさ…」

ユミル「…ン。なんだいアルミン」モグモグ

アルミン「ユミルってさ、好きな人っているの?」

ユミル「だはは、いるわけねぇだろそんなの。なんだアルミン、色を知る年頃か」ケラケラ

アルミン「あ、あはは。まぁそんなとこ…いないんだやっぱり」

ユミル「やっぱりとは失礼だなぁ…ま、そうなんだけどよ。強いて言うならクリスタだな。私の嫁だし」

アルミン「クリスタね、いつも仲いいもんね」

ユミル「まぁな。私たちはラブラブだかんなっ……おっと、幼馴染さまたちが来たみたいだよ。あっち行ってな」モグモグ

アルミン「うん。またね」
アルミン(…ふむ。とりあえず、ユミルは問題に想い人はいない、か。収穫だ)

エレンとミカサに合流したアルミンは、すぐ食事を取り、用事があるといって早めに食事を終えた。
食堂を出ると、一直線に兵舎へ戻るアルミン。訓練が始まるまではまだ時間がある。
アルミンは早速、訓練開始時刻までエレン専用対ユミル攻略戦術を練ることにしたのだ。
兵舎につくと、紙と筆記用具を引っ張りだし、机の上に置いた。

アルミン「ふむ…ユミルに恋人も想い人もなし。対するエレンはユミルが好き。…ん、あとユミルに恋愛感情を抱く発想も無さそうだな…」

いわゆるオボコである。
と思うアルミンだったが、自分もチェリーで、片想いくらいしかしたことがないので、人のことは言えない。 そして何よりちょっと恥ずかしい。

アルミン「いやいや、僕が恥ずかしがったら何も進まない。色恋沙汰に疎すぎるエレンを支援するって言った以上、とにかくやらなきゃっ」

アルミン(とはいったものの、僕も詳しいって豪語できるほど経験はない…はぁ…クリスタ可愛い。じゃなくて、えっと、とりあえず、現状はエレンもユミルも恋愛とかは初って認識でいいのかな)

現状を紙にざっとまとめるアルミン。 情報が少なすぎるとはいえ、今判断できることは二人が恋愛に全く接点がなかったという事実である。
もう少し根を詰めて情報収集をした方がいいのは明白だが、おおよそ二人が恋愛にまっ更な状態であるという結論は変わらないと予測される。

アルミン(うーん…だとすると、もしかしたら簡単にくっつけられるんじゃないか…?)

自信はないが、恋愛に対して偏見がないというのなら、案外恋愛小説にあるような単純な出来事で攻略できるかもしれない。
そう思ったアルミンは、とりあえず思いついた展開を幾つか紙に書き上げていく。
なんだかエレンとユミルを題材にした恋愛小説を書いているようで若干気恥ずかしかったが、それを堪えて書き上げていく。
ひと通り書き終えたあとアルミンは筆を置いて、今後自分がするべきことを思い浮かべる。

アルミン(ふむ…この展開で行ける気がするけど…。なんてったってこの作戦は幼馴染の晴れ舞台だ、もっと慎重になるべきだろう。だとすると僕は、とりあえず情報提供してくれる相手とこのメモの添削をしてくれる相手を探して、根を詰める作業をするべきだな)

訓練時間まで残り少ない。
アルミンは考えがある程度まとまった所で、自分のするべき行動を起こすため、兵舎を後にした。
この瞬間、フラグ設計士アルミンが誕生した。
エレンがフラグ建築士だとするならば、それをサポートし、恋を成就させる彼はまさしく設計士そのものだった。
後の訓練兵団で語り継がれる恋の伝説のはじまりである。

はじめの訓練は、軽いジョギングと準備体操から始まる。
意外に思えるが、厳しい訓練だからこそジョギングと準備体操は欠かせない。こういったもので体を解しておかないと、大怪我につながりかねないからだ。

ジョギングが始まると、アルミンはクリスタの元へと駆け寄った。

アルミン「クリスター、おはよ」タッタッタッタッ

クリスタ「ああ、アルミンっ!おはようっ」タッタッタッタッ

アルミン「はは、あまり訓練は得意な方じゃないけど、朝のジョギングは気持ちいいよね」

クリスタ「ふふ、そうだねアルミン」

アルミン(天使…じゃなくてっ)
アルミン「だよねっ!えっとさ、ふと思ったんだけど、クリスタって結構恋話好きだよね?」

クリスタ「えっ!?いや、えっ…いきなりなんで?」アセアセ

アルミン「いや、なんとなくそう思っただけ」
アルミン(これはなんの根拠もない憶測だ…でも、前にミカサやアニにエレンとの関係を聞いたりしてたのを耳にした…だからきっと…)

クリスタ「あはは、そっか…ん~、そうだね。結構好きだよ!私自身縁がないから、想像したり、人のお節介したりしちゃうんだ」

アルミン「そっか。やっぱりねっ…それでね、そんなクリスタに耳寄りな情報が…」チョイチョイ

クリスタ「ん?なになに?」

アルミンはエレンの想い、そして、自分が立てた計画をクリスタに包み隠さず話した。
クリスタは恋愛に興味津々だが、普通の女子のようにベラベラと他人に喋ったりしない。そう思ったアルミンは協力を仰ぐためすべてを話した。ユミルの(おそらく)唯一の友人であるクリスタに協力を仰げれば、この勝負は勝ったも同然だ。
クリスタは頭の回転が早い方だったため、事情をすぐに飲み込んだ。

クリスタ「ふむふむ…なるほど。つまりエレンとユミルをくっつければいいんだよね?」

アルミン「うん、そうなんだ。協力してくれる?」

クリスタ「もっちろんだよ!面白…じゃなくて、ユミルは私の親友だもん!幸せになってほしいもん!!」

アルミン「本当ッ!?ありがとう!…それでなんだけどさ、どうかな?僕の推測は合ってると思う?」

クリスタ「えっと…ユミルに恋愛経験がないって話だよね? うん、合ってると思うよ」

アルミン「そう?合ってた? 僕はユミルと接点がないから、よくわからないんだ。入団前の情報とか知らない?」

クリスタ「うーん…そういうのは私もあまり聞いたことないんだぁ…でも、入団前は恋愛どころじゃなかったみたいだから、大丈夫だと思うよ」

アルミン「そっか…クリスタがそう言うならそうなんだね。なんか訳ありっぽいから、詳しくは聞かないね」

クリスタ「ありがと。さすがに友達でも過去を勝手にバラすような真似できないから…」

アルミン「ううん。僕だってエレンに無断で過去の話はできない。その辺りは察するよ」

ジョギングは終わり、ひとまずアルミンとクリスタはいつも通りのメニューをこなすことにした。
日頃と違う行動を行えば、周囲から疑われる。疑われれば、どこかで作戦がバレて、ユミルとアルミンの関係が二度と修復不可能に陥ってしまうかもしれない。

もちろん作戦の露呈が良い結果をもたらす可能性もある。
作戦が露呈することで、ユミルにエレンの想いを気づかせて、意識させる。そういう可能性ももちろんゼロではない。
しかし、これが失敗した時のリスクを考えると、露呈は絶対に阻止し無くてはならない。
あったとしても、それは飽くまで最終手段。作戦が失敗した時、クリスタが直接ユミルにエレンが想いを寄せていることを教え、意識させるという方法を実行する。
それまではなるべく自発的に意識させることに焦点を合わせる必要がある。
なので、対象者に作戦が露呈することは可能な限り防がなくてはならない。

アルミン(問題はミカサやアニといった障害物の存在だ…彼女らはエレンが好きな女子筆頭に位置している。
アルミン(立場上ミカサの応援もしたいけど、家族愛か恋愛か依存か、自分の感情に区別がついていないミカサより明確に好意を把握し、そして告白もせず諦めているエレンを僕は応援したい…。それに、ミカサは家族だと豪語してる以上、どんな結果になってもエレンがミカサを離れることはないし、絶縁することも考えられないしね。…ごめんねミカサ…)
アルミン(…。…ひとまず、エレンとユミルのデートまでは放置しよう。二人を変に遠ざけても、勘ぐられて作戦がバレるかもしれない。そうすれば根底から崩れる危険さえある。だから、ユミルの好感度が上がるまでは放置して、なるべく二人の妨害を受けない形でこちらからも間接的なサポートに徹底しよう)

ストレッチをしているアルミンの頭のなかでは、パズルがカチカチと音を立てて組み立てられていく。
障害となる女子の対処、ユミルがエレンの好意に気づく方法、エレンに対する好感度の上げ方、全体としての進行の流れ…フラグ設計士アルミンは実に計算高く、事の顛末を予測し、予定を立てていく。
カチリ、とアルミンの頭脳パズルが完成する音がした(気がする)。

アルミン(…よし。とりあえず、まずはユミルとエレンの接触回数を増やそう。恋愛の基本は互いにお互いの情報を多く知ることにあるって本に書いてあったし)

即実行。
アルミンは次の対人格闘術の前に、ひっそりクリスタと会い、エレンとユミルがペアを組めるように仕組むことを提案した。そして、それ以外の場面でも二人っきりになれる場面の多くできるよう、連携することもクリスタに伝える。
作戦バレを防ぐためクリスタとひっそり会っているアルミンとしては、クリスタと逢引している気分なのでなんだかこの作戦も悪くない気がしてきている。エレンを助けつつ、自分も美味しいという二度美味な作戦である。
アルミンとの作戦会議が終わり、クリスタはウロウロと営庭を放浪する。

ユミル「クぅーリスタっ!」ダキッ

クリスタ「っととと。んもぅユミルぅ!いきなり抱きつかないでよ!」

ユミル「あはは、いいじゃないか、私とクリスタの仲なんだしさ!さっ、次の対人格闘は私とペア組もうぜぇー」

クリスタ「あ、ごめんユミル!しばらくミーナが対人格闘のペアしてくれって頼まれてるの。ごめんね」

ユミル「はぁ?…ていうか、ミーナと?あいつお前と大差ないだろ?同レベルで組んでも意味ねぇって」

クリスタ「だからだよっ!技術とかは強い相手から学べるけど、一戦の時間が短くなっちゃうの。だけど、同レベルの相手と戦うことで一戦の時間が長引いて、学べることも多いんだよ!」

ユミル「あー…まぁたしかにそうかもな…いや、でもさ…――」

渋るユミルの背後から、ライナーとベルトルトがいきなり声をかける。

ライナー「おっ、クリスタもなかなかわかってきたな!そうそう、戦闘時間が長引くってのはメンタルと体力も考慮しなくちゃならないし、学べることは多いんだ」

ベルトルさん「あと、クリスタとミーナは同じ戦い方をしてるように思えるし、お互いのレベルを知るいい機会だと思うよ」

クリスタ「あっ、おはよう二人とも!」

ユミル「チッ…オメェら巨漢なんだから、いきなり声かけてくるなよ。びっくりするだろうが」

大して驚いてはいないが、ユミルは悪態をつく。
納得行かないユミルだが、訓練的に理屈が通っているため、渋々身を引くことにした。
ユミルとしても、クリスタが成長し強くなることに反対ではなく、むしろクリスタの境遇を想って強くなってほしいとさえ思っている。

ベルトルさん「はぁ、傷つくなぁ…結構気にしてるんだよソレ。おはようクリスタ、ユミル」

ライナー「昔からベルトルトは背が高かったからなぁ…まぁ、何にせよクリスタのためだ、お前もたまには他の奴と組んでみるといい。それと、おはよう、クリスタ、ユミル!」

ユミル「おはようさん巨漢コンビども……クソ、わかった。筋は通っているから、私は身を引く。クリスタ、後でまた会おう」

クリスタ「う、うん!じゃぁ、また後でね…!」

ミーナ「え、えっと…アルミンから話は聞いてるよ。とりあえず、私と組もうか?」

クリスタ「うん!じゃ、あっちいこミーナ!」
クリスタ(さすがアルミン…まだミーナに話を通してないのに。手が早い)

クリスタとミーナは端の方に移動し、対人格闘を始めた。
一方でエレン側はというと。


~クリスタがユミルとのペアを解消する宣言をする五分前~

エレンとアルミンは、営庭の真ん中でストレッチをしていた。
作戦を練ってきたというアルミンにエレンは待ちきれず質問をする。

エレン「で、どうすんだよアルミン」イッチニサンッシ

アルミン「うん。とりあえず……っと、おーいミーナぁー」フリフリ

ミーナ「?…はーい。おはよーアルミン!何か用かな?」タタタ

アルミン「おはよミーナ。うん、用があるんだ」

エレン「お、おいアルミン、なんでミーナが出てくるんだ。協力者はクリスタだけって言ってただろ?」

アルミン「まぁね。でも多いに越したことはないだろ?とりあえず初めはユミルとの接触回数を増やそうと思う。元々遠目に見ていただけなんだから、デートや告白云々の前に今以上の接点を持たないとね!だから、そのためのサポートにミーナが必要だってことさ」

エレン「なるほど…」フム

ミーナ「えっと、えー…状況がうまく飲み込めないんだけど…」

呼びつけておいて、勝手に二人で話を進められ戸惑うミーナ。
慌てて今の状況をアルミンはミーナに伝える。

アルミン「―…ってことなんだけど、協力してくれるかな?もちろん他言無用でね」

ミーナ「ふぅむ…わかった!いいよアルミン!…私口が堅い方だし!」

アルミン「ありがとうっ。これでスタートダッシュはスムーズに進められそうだね」

エレン「口が固いって自分で言うやつほど軽いと思うんだが…」

ミーナ「あはは、まぁそうだね。でも私は違う。入団前も後も恋のキューピッドとかやってたんだから、恋愛のことはわかってるつもりっ。アルミンの作戦も悪く無いと思うし、全面的に協力するよっ」

エレン「そっか。まぁ、わかったわ…それで、俺は何すればいいんだ?」

アルミン「そうだね…まぁ、はじめのうちに難しいこと言っても無理だろうから、とりあえずエレンはひたすらユミルと一緒にいるように心がけて。そのサポートを僕らはする」

エレン「なんだ、そんなことでいいのか…アルミンの言うことだし、とりあえず信じてやってみるよ」

アルミン「頼んだよエレン。さ、あっちでちょうどクリスタがユミルを断ってる所だ!エレン、ミーナ、早速作戦開始だよ!」

アルミンがそう言うと、早速エレンとミーナはクリスタとユミルの方へと駆け寄ることに。
アルミンはエレンとペアを組む予定だったアニが一人になってるのを知っていたため、ペア組を頼みにアニの元へと駆け寄っていった。


~時は戻って…~

ユミル「ったく、あのゴリラとゴボウめ…変に援護射撃しやがって…」

筋は通っていたとはいえ、どうしても苛立ちを隠せないユミルは営庭の石ころを思いっきり蹴っていた。

エレン「あっ…おーい!ユミルー!」

ユミル「あ?」

エレン「あ?じゃねぇよ…始まってからだいぶ経つのに一人でふらついてるってことは、ペア決まってないんだろ?俺も決まってなくてさ、組まないか?」

ユミル「あー?お前ぇもかエレン…アルミンはどうした」

エレン「あぁー…いや、なんか知らねぇけど自分も格闘術がんばらなきゃーとかいってアニと先に組んじまったよ」

ユミル「アルミンもか…うちもクリスタが頑張るーとか言ってミーナと組んじまった」

エレン「ミーナと…?へぇ。でも、まぁいいんじゃないか?人選はどうあれヤル気があるってのは」

ユミル「やる気ねぇ…はぁ、まぁいいや。要領いい奴は対人格闘術なんざサボってるし、私もサボろうかと思うわ。お前はミカサの所でも行ってろよ」

エレン「い、いや…たまにはお前と組みたくてさ。ダメか?」

ユミル「別にダメじゃねぇが…どういう風の吹き回しだ。ミカサと喧嘩でもしたのか?」

エレン「まぁ、ん。そんなとこかな。まぁいいだろそんなこと!とにかく今日はお前と組みたいんだ…!」

ユミル「チッ、面倒くせぇ…いいぜ。ただし、お前相手だから一切手加減しねぇからな」

エレン「おう!ぜひそうしてくれ! じゃぁ最初は俺がならず者役だな!」

ミカサ「エレ…あっ」
ミカサ(…ユミルとすでに組んでいる…妨害したいけど、エレンも社交性を身につけるべき…相手が女なのは遺憾だが、ここは身を引こう…ユミルなら大丈夫なはず…)ギリギリギリ

思っている事と態度はまったく逆である。
エレンとユミルは無事対人格闘のペアを組むことができた。
完全に出遅れたミカサはとりあえずライナー・ベルトルトペアに参加して、二人をリンチすることにした。

エレン「やっ!よっと!ほっ」バッバッバシッ

ユミル「ハァッ!タァ!」スッスッスッ

エレンの攻撃は単調ながら鋭く相手の急所を狙おうとする。
しかし、ユミルのスマートな動きに次々とかわされ、反撃される。

ユミル「ヤーッ!」ズシン
エレン「っと…痛ッ…」ドン、ザザッ

ユミルの攻撃がヒットし、エレンが後ずさる。
いつもケラケラしている割に、戦闘の筋がいいユミル。伊達に入団前盗人をしながら食いつないでいた訳ではない。 そういった意味で経験が不足しているエレンは、格闘の筋が良くとも、まだまだ未熟である。

エレン「はぁ…いつもふざけてる割にユミルって結構強いよな。クリスタ相手にもそうなのか?」

ユミル「あ?んなわけねぇだろ。力に差がありすぎる」

エレン「そうなのか?…でもクリスタって真面目にコレやってるよな。手加減したら怒るんじゃねぇの?」

ユミル「…まぁ実際怒られたけど、私なりに考えて手加減してんだ。それ言ったら納得してくれた」

エレン「考え?」

ユミル「あぁ。力量差がありすぎる格闘は、弱い方に余裕がなくなって、学びが減る。逆に、わずかに強い相手と戦えば効率的に戦闘の学習ができる。私独自の経験則に基づくもんだが、間違っちゃいねぇはずだ」

エレン「ふーん…。でも俺がアニやミカサと組んでる時、結構学べること多かったけどな」

ユミル「そりゃお前が凡才なりに基礎能力や強い目的意識があったからだろ。ある程度の基礎があって、多少戦いをかじってた人間が強い目標を持って挑む場合、力量差が広くても問題ないもんなんだよ。目標は死に急ぎ的でクソッタレだが、それを実現させようと努力し、より強い相手から吸収しようとしてる。漠然と強くなりたいだとか、護身を身につけたい程度の望みじゃ俄然無理な話なんだ。ましてや基礎能力もないクリスタじゃ余計にな」

エレン「結構ズバズバ言うなお前…まぁ、そうなのかもな」

ユミル「あぁそうだ。クリスタの変わろうと努力することは悪いことじゃないし、尊敬に値する。けど、大抵それに対する想いの強さはそいつの経験や過去の出来事に起因してる。想いの強さで人は強くなれる。だから、お前とクリスタじゃ基礎能力も想いの強さも訳が違うんだよ。基礎能力がないクリスタは力量差がありすぎるとすぐヘバっちまうし、想いの強さもお前ほど強くねぇ…だからクリスタのレベルに合わせて手加減してんだ」

エレン「…」

ユミル「あ?なに黙りこくってんだよ、気に障ったか?」

エレン「いや…なんつうか、ユミルって結構人のこと見てんだなってさ…お前って優しいよな」

ユミル「ッ!…うっせ」///

エレン「はは、俺は結構お前のそういうところ素敵だと思うぞ?口の悪さは仕方ぇにしても、その優しさを皆にもっと振りまけばいいのにさ」

ユミル「~~~ッ!だ~~もぅ!うるせぇうるせぇ!次行くぞ次!」///

エレン「照れてる照れてる。可愛いなお前」

ユミル「可愛ッ…クソッ、おちょくりやがって…オラ次は私がならず者役だ!一発ノックアウトしてやるよ!」///

エレン「おうよ!望むところだ!…来いッ」

ユミル「あぁ、行くぞッッッ!!!」///

いきなり褒めるエレンに、ちょっと照れてしまうユミル。
結局照れたユミルは、照れ隠しに対人格闘でエレンをボコボコにしてしまう。
ボロボロになりながらも、どこか満足気な笑みを浮かべるエレンである。マゾなのだろうか。

ユミル「ケッ…調子乗りやがって…」

エレン「はは…いっ痛ぅッ…いや、でも可愛かったのは本当だしさ」ボロ

ユミル「あぁ?まだ言うか?」ギロ

エレン「うっ…すまんすまん。もうフルリンチは勘弁だ」

ユミル「わかりゃぁいいんだよわかりゃな…嘘でもあーゆーこと言うんじゃねぇよ」チッ
ユミル「……クソ、調子狂うぜホント」/// プイ ボソッ
エレンはそこはかとなく余裕が有るように見えるが、ユミルの心中は穏やかではない。
エレンはデフォルトでこういう発言をする質なので、きっと発言の表裏はないのだろう。そしてその発言が意味することもよく理解していない。
頑張るイケメンである以外に、こういう心ない恋の矢を無差別に放つエレンはある意味で女の敵なのだろう。

ユミル(死に急ぎ野郎のクセに…接点がなかったってのもあるが、こんなこと言う奴だったか?…その、わた、私が可愛いとか///……い、いや、ねぇよ!ないない絶対!今まで言われたことねぇし…どうせ巫山戯てるに決まってる!)チラッ

エレン「…?」

ユミル(ッ!…~~~!)

さすがはオボコ。考えがウブである。
しかし、ちょっと照れたものの、ふとエレンの悪評を思い出すユミル。
ユミル(……いや待て、冷静になろう。相手はエレンだ。死に急ぎ野郎とは別に、鈍感大明神の異名を持つエレンだ…たぶん他意はねぇはず…。だとすると茶化しただけか……ドギマギして損したかもしれねぇな)

どこかで冷めてるユミルは冷静にエレンの真意を考える。
エレンの評価はいろいろあるが、今回は鈍さもピカイチという所が仇となったらしい。

ユミル(…はぁ、ちょっと残念だったかもしれんなぁ)ハァ

恋に恋するほど浮かれているユミルではないが、彼女も人並みには恋愛に興味がある。
相手がエレンなのは少々気に食わないが、無自覚に残念がってしまう。

ユミル(…いや、残念ってなんだよ…ねぇだろオイ…相手は死に急ぎ野郎だぞ…)

エレン「…おいユミル。そっぽ向いてどうした?…調子悪いのか?」

ユミル「い、いや、何でもねぇよっ!…ほら、私は大丈夫だからあっち行け死に急ぎ野郎!対人格闘はもうすぐ終わりそうだし、次の訓練行くんだよ!次こそはクリスタと組むんだ!」ドンッ

エレン「ってて、まだお前にやられた所痛ぇんだから押すなよ!わかったよ、行けばいいんだろ行けば!」

ユミル「ハンッ、男が情けねぇこと言ってんじゃないよ。のそのそしやがって、チッ、私が先に行く」

エレン「あっ、おい!ユミル!……って、速ぇなアイツ、もうあんな先に…」

ユミルは照れて、遠方へと走り去っていった。
その後の訓練も、クリスタやアルミンの計らいで度々エレンとユミルが一緒になる機会が増えていった。
その度にエレンはフラグ建築士としての才覚を遺憾なく発揮していった。

ユミル(お、おいおい…なんだって今日はこんなにエレンの野郎なんかと一緒になることが多いんだ…?!)

訓練が終わり、夕食までまだ時間がある。
ユミルは訓練を早めに切り上げ、早々に兵舎に戻っていた。
ユミルは、今日あった不可解な出来事を淡々と思い浮かべ、誰もいない女子専用の兵舎で、自分のベッドに寝転がり、宙を眺めていた。

ユミル(なんだって、今日に限って、あんな奴とたくさん接触する回数が増えてんだ!今まで接点なんてなかっただろッ!?)

ユミル(接点がなかったのに、なんかしらねぇが口を開けば、…その、か、かか、可愛い可愛いばっかで、…調子狂うぞホント…)///

今まで恋愛に疎かったユミルは、自分の容姿や仕草をほめられたことが一度もない。
入団前は盗人まがいな生活をしていたため、誰かに何か言われるとしたら、大抵が「ブスが!」とか「汚らわしいドブネズミが!」といった事ばかりで本当に一度も褒められたことがなかったのだ。
入団後に至っては、長年の捻くれた生活のおかげで身についた汚言癖が元から大して可愛くない容姿とマッチして、心身共に悪評しか貰ったことがない。

ユミル(一体どうしちまったんだアイツは…色恋沙汰に疎くて鈍い死にたがりのクソ野郎が、なんたって今になってこんなに私を褒めてくれるんだ…冗談だったら、本当に質が悪い…)

ユミル(…それで、そんなクソ野郎からの褒め言葉なんかに照れてしまう私も…一体どうしちまったんだ…)

褒められ慣れておらず、恋も知らないユミルは己の動悸が激しい理由に皆目検討がつかない。
若干の焦りと、「よもやコレが恋なんじゃねぇか」という不安、「いやいや待てよ、アイツだぞ?私自身引いてる奴に惚れるなんて」という否定が入り混じり、なんだか自分がよくわからなくなるユミル。

ユミル(…そもそも、アイツの周りにはキレイな女が掃いて捨てるほどいるはずだ。私のクリスタや、ミカサ、アニ。。。どれも過去・中身など一癖ある人間ばかりだが皆絶世の美女と言えるレベルの女どもだ…)

ユミル(…はぁ…こんなこと考えるってことは……認めたくねぇが、もしかして、エレンに気があるんじゃねぇのか私は……。よく、わからねぇな…とりあえず寝よう)

遅れて訓練から帰ってきたサシャに、ユミルは飯をくれてやるという旨を伝え、早々に就寝につくことにした。 未だ自分の胸のモヤモヤが晴れそうにないが、今は寝て、心を休めることにした。

ユミル(よくわからねぇが…とりあえず、様子見すっかな…)


------
翌日の昼休み。食堂。
アルミンは自分の作戦が上手くいっていることを確認できる出来事に遭遇する。

アルミン「ねぇ、エレン。昨日散々ユミルと鉢合わせてあげたけど、どうだった?」

エレン「ん?いやぁ…自分じゃよくわからねぇな…はじめの方はユミルと普通に会話もできたんだが、後半から顔を背けるようになっていったし…嫌われてないとは思うが、うーん…」

アルミン「そっか…」

エレン「あー、あと、なんか顔も心なしか赤かった気もするな。訓練も早めに切り上げて、夕飯も食わず寝ちまったみたいだし、もしかして昨日は体調が悪かったんじゃねぇか? 軍師アルミンといえど、相手の体調までは見破れなかったか…」

アルミン「ぐ、軍師だなんて…でもクリスタの話じゃ昨日の朝は全然体調悪そうになかったって言ってたよ?僕の見落としも考えられるけど…実際に様子を見てみないことには僕も判断しかねる、かな」

アルミン(夕飯も食べず早めに寝てしまったことも考えると僕の見落としも可能性としてゼロじゃない…が、ユミルの態度が変わったという話から察するに、これは…)

エレン「おっ!噂をすれば…おーいユミルぅー!体調どうだー!」フリフリ

エレンが午前の訓練から帰ってきたユミルに対し、手を振る。
昼時の食堂は雑談の場になる。
訓練のスケジュール的に、訓練から昼食まで、昼食から午後の部まで少し時間が開いている。兵舎で休むのも昼食時に戻ることを考慮すると面倒なので、よく訓練兵一同はこの食堂で雑談をしている。これが厳しい訓練の中での少ない癒しの時間なのだ。

ユミル「…!……う、うるせぇ!」/// プイッ スタスタスタ

クリスタ「あっ!ちょ、ユミル!急にそんな早く歩かないでよ!」タッタッタッタッ

クリスタと一緒に訓練から帰ってきたユミルはすぐにエレンの声に気づいたが、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。
そんな様子を見て、エレンはアルミンにため息混じりに発言する。

エレン「ほれ見ろ。なんか調子悪そうだろ?」ハァ

エレン「昨日の午後からはずっとアレなんだよ…以前にもまして距離が空いた気がするぜホント」

アルミン「あ、あはは…」
アルミン(…いや、待てアレは違うな…体調不良なんかじゃない。たぶん照れてるぞ…)

すぐに状況を察したアルミンは、不敵にほくそ笑む。

アルミン(これは作戦が成功しているっぽいな…あとでクリスタに確認を取った方がいいが、順調に進行しているのは間違いない…)ニヤリ

元からエレンは、照れたりしない限り、思ったことを素直に言う性格だった。
それが仇となり今では度々ジャンを筆頭に口論になったりする。恥じずに思ったことを口にできるってことは良い事だけではないのである。もちろん、「素敵なことだと思うぞ」だとか、「そういうところ好きだぜ」とか平気で言えるエレンは無自覚に女子の心をくすぐり、好意を無意識に買い取ってしまう。おかげでアニやミカサ以外の一部の女子からも絶大な人気を誇る。これも主人公というやつなんだろう。
話は戻るが、そんなエレンは今、ユミルにベタ惚れである。ベタ惚れ状態のエレンがユミルと一緒にいる時間が長ければ長いほど、褒めて褒めて褒めまくるのは当然の結果である。
アルミン(愛してるだとか、好きだとか…そういうのは絶対に言えねぇ!って言う割には、それと同等の恥ずかしいセリフは普通に吐けるよねエレンって…鈍感もこう作用すると作戦が利用しやすくて助かるな)

アルミンは己の頭脳に恐怖した。
しかし、親友であり、幼馴染であるエレンを助けられるというのなら、鬼にでも悪魔にでもなると決めていたので、フンダンにこの才覚を利用することにした。

アルミン(この才能が自分の恋愛にも使えればいいんだけどなぁ…)

エレン「アルミン…そんで、結局ユミルへの作戦はどうなんだ?」

アルミン「うん。大丈夫そうだよ。エレンは不安かもしれないけど、僕を信じてこのまま任せてくれないか?」

エレン「そうか…アルミンが言うんなら確実だな。わかった、今後も任せるよ」

アルミンは昼食を食べ終わると、次の作戦に移れるようにクリスタとの待ち合わせ場所に行くことにした。
エレンは指示通り、早めに食堂を出たクリスタの席へと座っていた。ユミルは赤面しながら、一気に昼食を平らげ、強引に食堂から去っていく。
食堂からのさり際、アルミンはその様子を眺めながら、この作戦は確実に成功する、と確信した。

それから数日。アルミンの狡猾な作戦は繰り広げられていった。

ユミル「あっ、てめ…!勝手に横座ってんじゃねぇよ!座学ん時くらいあっち行ってろ!」

エレン「ははは、ごめんごめん」

ユミル「チッ、薄気味わりぃな…」

エレン「薄気味悪いたぁ、心外だなぁ…。俺は先週の範囲がよくわかんなくて、座ったんだよ」

ユミル「あ?んなの、アルミンに聞けばいいだろ?」

エレン「いつも頼りっぱなしだから、たまには違う相手でってなっ」

ユミル「なんで私なんだよ」

エレン「お前が、いいからだ! 可愛い奴と一緒にできるって身に入るからな!」

ユミル「なっ!? お、おちょくんのも、いいかげんにしろ!」///

エレン「はははは」

何度となく、エレンはユミルと接触していく。

ユミル「はぁ…腹減った…。エレンなんぞに絡まれすぎて、最近は体力どころか、精神もすり減らしとる…」

エレン「よーっすユミル!隣いいか?」

ユミル「あ゛ぁ゛!? 座んな、諸悪の根源め!」

エレン「諸悪の根源って…」

ユミル「あぁ、そうだよ。クソッ、飯時も落ち着いて食べれねぇのか」

エレン「別にいいじゃねぇか。それに飯食ってる時は今日が初めてだぜ!」

ユミル「…はぁ、もういい。さっさと食って、“私”が消える」ガツガツガツ

エレン「連れねぇなぁ…。あ、パンくずついてるぜ」ヒョイパク

ユミル「なななッ」

エレン「おお、カレーもついててウメェなパンくず」ケラケラ

ユミル「勝手に触んじゃねぇよ!」

エレン「すまんすまん。じゃぁ取らないほうがよかったか?」

ユミル「触られるよりは、な」

エレン「そっか…。そうだな、俺もパンくず付いてるお前の顔、もっと見てたかったし」キリッ

ユミル「あ?喧嘩うってんのかお前」

エレン「なんか、いつものユミルと違って、可愛く見えたからな!」

ユミル「」///

かなり性急な作戦だったため、こうも続くと、さすがのユミルも気づいてはいた。

ユミル「…チッ、まただよ…」

エレン「おーユミルー。クリスタはどうしたんだー(棒読み」

ユミル「てめぇ、演技できてないのわかってんのか?大根役者」

エレン「ハハハ、なんのことかなぁ…」

ユミル「…もういい。ほら、対人格闘始めるよ。お前がならず者だ」


……
エレン「よっ、はっ」シュッシュッ

ユミル「テェァッ!」バシッバシッ

エレン「せぇい!」シュバッ

ユミル「よっと。へへ、他愛ねぇなエレnッ――」ヨロ

エレン「ユミルッ!…っと、危ぇ!」ダキッ

ユミル「ッ!…は、はなせ!」

エレン「嫌だ。黙っていたが、お前さっきの対戦で足捻ってただろ?このまま医務室まで連れてく」

ユミル「ひねった程度大丈夫だ!いいから離せ」ジタバタ

エレン「大丈夫なわけねぇだろ!今日だけじゃない、ここ最近ずっと調子が悪そうだった。この際まとめて見てもらえよユミル」

ユミル「だ、誰のせいだと思ってやがんだ…!チッ、離さねぇと…」

エレン「離さねぇぞ…! 俺は、お前が傷ついてるのは見たくねぇんだ…大事な、お前が…」

ユミル「だ、大事って…お前…」///

エレン「だから、医務室には絶対行かせる。元気なお前が俺は大好きだからな!」ニカッ

ユミル「」/// プシュー

けれども、不自然に思ったユミルもまんざらでもなく、

ユミル「……な、なぁ…」チョイチョイ

エレン「…? どした」クルッ

ユミル「お前、先々週の座学のノートないんだよな?」

エレン「ん。あー、そういえば先週は怪我して座学休んだな…どうしたんだ急に」

ユミル「そ、その…写させてやっても、いいぜ…?」

エレン「えっ」

ユミル「だから!写させてやってもいいっつってんだよ。聞けよちゃんと!」

エレン「あ、あぁ。すまん…でも、どうしたんだよ急に」

ユミル「お、お礼だよ…。この前、医務室まで連れてってくれた時の」

エレン「あー…別に気にしなくていいんだが…」

ユミル「いいんだよ!私が貸しは作りたくねぇんだ。好意は素直に受け取っときな!」

エレン「そ、そっか。わかった。サンキューなユミル」ニコッ

ユミル「」/// ドキッ

ユミル「……その…こっちこそ……ぁ…がと…」/// ボソッ

エレン「あ?なんかいったか?」

ユミル「~~~! う、うるさい!早く書けっつってんだよバーカ!」///

エレン「あ、おい!押すなって!わかった、わかったからっ!」

ユミル「ふんっ」/// プイッ

この状況を自然と楽しんでいた。

そんな日常が一週間も続いた。
アルミンの展開した接触回数増加作戦も次の段階へと進もうとしていた。

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ユミル(う、うぅ~~~~/// なんだなんだなんだ!…チクショウ、なんかおかしい!…おかしいけど、楽しい…楽しい自分が更におかしいぞ…うううううう~~~うう~~~!!!////)///

アルミンの作戦が一週間経った日の夜。
体調不良を理由に、今日も訓練を早めに切り上げて、兵舎のベッドに寝転がるユミル。
そろそろキース教官の怒りを買いそうなのでこの言い訳も効かなくなってきている。
ユミルはベッドの上に仰向けで寝転がり、枕に顔をうずめていた。

ユミル(チッ!あぁ、認めてやるよ…私はエレンが好きみてぇだ…クッ…)///

細い目が壁を睨む。
だが、顔が赤いため、その眼光には可愛げこそあるものの、恐れるほどの威力はない。

ユミル(どういう思惑かは知らねぇが、クリスタとアルミンが仕組んでるのは確かだ!他にも不自然な動きをしてる奴が何人かいるし…なんだってんだよチクショウめ……)

ユミル(これが…嘘とか、冗談だとか…そんなのだったら絶対許さないからな…)

褒められ慣れしていないユミルは、見事エレンの褒め攻撃に陥落してしまったようだ。
いくら虚勢を張っても、恋愛に免疫のないユミルにとって、これほどまでに自分に夢中(だと思われる)な異性からのアタックは好意を抱くのには十分な一撃だった。
とはいえ、心のなかでは未だ認めたくない自分も居るので、素直にエレンと会話できる自信がない。
自信がないけれど、明日以降は訓練をサボるわけにも行かず、エレンと鉢合わざるをえない。
どうせアルミンやクリスタが気を回して、エレンとユミルが一緒にいる時間が増えるだろうから、鉢合うのは目に見えていた。

ユミル「うぅ…自分がこんなにチョロいなんて思わなかった…明日からの訓練、どうすりゃいいんだ…好きに、なっちまったんだろうな………私は……zzz」

うんうんと唸りながら、いつの間にかユミルは眠りについてしまう。
エレンを意識しだしてからというもの、ろくろく睡眠もとっておらず、本当の体調不良になりかけていたユミル。 一週間の猛攻撃は、奇しくも嘘を誠にするだけの威力も秘めていたようだった。

しおり03
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ユミル「ぅ…ぅぁ……熱い…」

翌朝、ユミルは熱を出した。
一週間の寝不足が祟った結果だろう。

サシャ「ユ、ユミル…大丈夫ですか? 今日の訓練はお休みします?」

ユミル「…ぅぅ…るせぇ、芋女…私は大丈b…うっ」ズキン

クリスタ「ああ~!だめだよユミルっ!頭痛いんでしょ?起きてちゃ駄目!」

頭痛に痛がるユミルにクリスタが宥める。

顔もかなり赤かったので、ミーナが額に手をやり、熱を測る。

ミーナ「熱ッ!?…頭痛もだし、熱もあるねコレ。寝てたほうがいいよユミル」

ユミル「チッ…あ゛あ゛~…くそぉ…」ズキズキ

クリスタ「はぁ…教官には私から言っておくから、今日はきちんと寝てるんだよ!いいねユミル」

サシャ「そうですユミル!安静にしててくださいね!パァンは私が引き受けておきますから、ご安心ください!」

ユミル「騒ぐなうるせぇ芋女!…はぁ、はいはいわかったよ…頭も痛ぇし、私は寝てるよ。さっさと訓練行ってこい」

ユミルは悪態をつきながら、シッシッと追い出すジェスチャーをする。
クリスタを始めとした女子訓練兵らは、心配しつつも、兵舎をあとにした。

ユミル(…でも、こりゃ都合がいいかもな…今日からの訓練行くの億劫だったしな…)

エレンが好きだと認めてしまったユミルにとって、それ以前の訓練と今日以降の訓練ではまるで意味が違っていた。 好きだけど、そう素直に言えない男がいる訓練とそうでない訓練では、居心地の悪さは百倍違う。
素直に顔向けできないわ、意識して集中できないわ、良いことがひとつもない。さっさと告白の一つでも済ませれば、すべて解決する話なのだろうが、なんとなく負けを認めるようで自分から告白などできるわけがなかった。

ユミル(そもそもあっちから、突然迫ってきたんだ…私が告白するなんて、なんか癪だ。…まぁ、今日休んで、色々整理しよう…明日からの訓練がうまく行くように…)

基本的に文句と悪口しか吐かないユミルだが、別に遊びに来ているわけではない。
エレンほどの強烈な目的意識があるわけではないが、自分の境遇から脱し、一つの力を得るためにここへ入団した。
男一人好きになった程度で、それが揺らぐようではこの先ずっとうまくいかない事くらいユミルもわかっていた。
今後どういう展開になるにしろ、真剣に訓練に参加できるように、ユミルはこの休養を十二分に使うことにした。

ユミル(ちょうどいい…とりあえず、エレンへの折り合いを…休みながら考えてみっかな…)

ユミルは再び眠りの底へ誘われて行った。


所変わって、食堂前。
ターゲットであるユミルが来ないことを心配したアルミンとエレンは、同室のクリスタに事情を聞くことにした。 なんでも熱を出したとかで、ユミルが今日一日休むことにした、という事実を二人は知る。

クリスタ「…どうも連日寝てなかったみたいでね、それが原因だと思う」

アルミン「あちゃー…思った以上に意識してたっぽいなこれは…」

クリスタ「うん。私もそう思う…ここ一週間ずっと悩んでたみたいだし、エレンといるときはすぐ顔を赤くして、挙動がおかしくなってたし…」

エレン「お、おい。ユミルは大丈夫なのか?」

クリスタ「うん。とりあえず大丈夫だと思う。悪態をつく元気はあるみたいだしね」

エレン「そっか…」ホッ

アルミン「うーん…しかし、僕が思った以上に効果があるなんて…ちょっと、いや、かなり罪悪感が…」

クリスタ「まぁ…私もこんなに効果があるなんて思わなかったよ。でもね!これってチャンスだと思うの!罪悪感だと思うなら、中途半端に終わらせず、このまま突き進もうよ!」

アルミン「チャンス?」

クリスタ「うん。あのね、弱ってる時の女の子って、すっごく付け入り安いんだよ!」

エレン「そ、そうなのか。…ていうか、なんかそれだけ聞くと、悪女みたいだなクリスタ…」ヒキ

クリスタ「ぅええ!?いやいや、違うよエレン!そういう意味じゃなくって!…なんていうか、自分が心細い時に、支えてくれる人がいるってすっごく嬉しいし、安心するし…その、キュンってなると思うの!」

アルミン「…たしかに。そういう話はよく聞くね。…うん、そうだね。このまま終わらせたり、攻略に間が開いたりするのは良くない。このチャンスを活かそうよエレン」

エレン「チャンスっていってもな…お見舞い行くとかでいいのか?」

アルミン「うーん…」

アルミンは悩む仕草をしばらく見せ、思ったことを口にした。

アルミン「うん。そう、だね。君は一緒にいるだけで、好きな相手をベタ褒めする天性のたらしだ。それに相手の話にきちんと耳を傾け、自分の意見を言える人間だ。たぶん、一緒にいるだけで、君はユミルをモノにできる」

エレン「なんか酷ぇ言われようなのは気のせいか…」

クリスタ「そ、そんなことないよ!言い方はアレだけど、褒めてるんだよ!ね?アルミン!」

アルミン「あ、あはは…うん。そうだよエレン。恋愛に疎いって思ってるんだろうけど、歯に衣着せない君の姿はとっても素敵なんだ。自信を持っていい」

エレン「そっか。まぁ…アルミンが言うなら信じるよ。…けどさ、なんつぅか、そのアドバイスみたいなのってねぇのか?アルミンやクリスタは大丈夫大丈夫って言うけど、実際自信ないんだよ。ユミルの態度が変わったのは流石にわかるけど、それが好意なのか違うのかイマイチ俺にはわからねぇ。助言みたいなの欲しいんだ」

アルミン「う、うーん…助言っていってもなぁ…さっきも言ったように、いつも通りで居てくれれば、特に言うことはないんだけど…」

クリスタ「そうだねぇ…うん、強いて言うなら…」

エレン「な、何かあるのか!?クリスタ!」

クリスタ「好きだって…もっとたくさん言ってみるのはどうかな」

エレン「好きだって…?つまり?」

クリスタ「うん。えっとね、アルミンの指示で作戦中も結構褒めてたじゃない? けど、本人に好きだっていうのは言わなかったじゃない」

エレン「ん……まぁ、そうだな」

クリスタ「だーかーら。エレンは今度、告白まがいなセリフをたくさん言えばいいんだよ!」

アルミン「そうか!ユミルはご覧のとおり、熱を出すほど悩んでしまってる。きっと好感度はかなり上がっているに違いない…つまり、ここで畳み掛ければ…」

クリスタ「そう。好感度はマックスにまで上がるはず!」

エレン「!…なるほど。…いや、でも、告白ってなぁ…」///

クリスタ「ここまで来て何言ってるの!やらなきゃ!」

アルミン「そうだよエレン!このままうまく行けば、在団中ずっと、ハンナやフランツのようにイチャイチャできるんだよ!」

エレン「別にそこまでイチャイチャしたくねぇよ!!…まぁ、でも、うーん…そうだな…わかった。ここまでみんなでしてくれたんだし、頑張ってみるわ!」ヨッシ!

アルミン「うん!頑張ってくれエレン!」ガンバッ

クリスタ「その意気だよエレン!応援してる!」ファイトー

そんな経緯を経て、弱ったユミルに付け入るため
クリスタとアルミンに推されたエレンはユミルのお見舞いにしに行くことにした。
訓練は定時制だが、エレンはお見舞いが待ちきれず、さっさと訓練を終わらせようと訓練場へ走っていった。
そんなエレンの後に続くよう、アルミンとクリスタはのんびりと歩いていた。

アルミン「ふぅ…変な所で引っ込むなぁ、エレンは…」

クリスタ「ふふ、本当だね。いっつも怖い顔してるエレンからは想像つかない引っ込みっぷりだったね」

アルミン「あはは、たしかに。 昔から慣れないことすると、たまにあーなるんだよエレンは。十歳の誕生日にミカサから迫られた時も戸惑って狼狽えていたもん」

クリスタ「そ、そうなんだ…ミカサ…… ま、まぁ、それはいいとして、実際アルミンはどうだと思う?」

アルミン「エレンとユミルのことだよね。…僕の推測じゃうまくいくと思ってるけど、どうだろう。 結局はエレン次第だと思うよ」

クリスタ「そっか…。でもアレだけお熱なんだから、大丈夫だよねっ」

アルミン「そうだね。きっと大丈夫さ」

二人は、初恋にワクワクするエレンの背後を見つめながら、ふっと微笑みあった。

訓練も終わり、日が沈みかけた営庭で、エレンは一人、ユミルのいる兵舎へと向かっていた。
他の訓練兵たちのほとんどは夕飯まで雑談をするために、食堂へと向かう最中、エレンは一人兵舎に足を運ぶ。

エレン「はぁっ…はぁっ…」

エレンにとって、訓練がこれほど長く感じたことはなかった。

今までは訓練が最優先事項であり、短く感じることはあっても長く感じることはなかったのだ。

ユミルが寝ている兵舎にたどり着くと、ノックをして中に入る。

エレン「おーい、ユミルぅー」トントン

ユミル「チッ、誰だよ……ぅぅ…ねみぃ……………えっ!?」

ユミル(えっ、マジかよ!? 今何時だ!?)

飛び起きて窓を確認すると、あたりはもうオレンジ色に染まっていた。もう日が暮れてることに驚くユミル。
今日一日、エレンに対する気持ちの整理をしようとしていたのに、どうやら一日爆睡してしまったらしい。

エレン「ん~、ユミル寝てんのかー…しょうがない、入るか」ガチャ

ユミル(ちょ…まっ、えっ!?エレンか!?)

ユミルは一日手入れもせず寝ていたため、寝癖はあるわ、目ヤニはあるわでえらい状況だった。
幸い頭痛はしなくなっていたが、とても人前に出れる状態ではない。
そんなユミルにお構いなしにエレンは兵舎の中へ入っていく。
ユミルは慌てて布団を被り、壁側に顔を向けて寝たふりを決め込むことにした。

エレン「はぁ…やっぱ寝てんのか。タイミング悪かったなぁ…」バタン

ユミル(やっぱエレンか!?…いや、つか、なんで女子寮に入ってこれんだよアイツ!!)

エレン「ったく、せっかく教官にクリスタ同伴で入室許可とって来たってのに……成績優秀だったのが功を奏したけど、これじゃ水の泡だな……こんなことならクリスタも来てもらった方が良かったぞ。なんか寝込み襲う変態みてぇじゃねぇか…」ハァ

ユミル(マジかよ…そんなに緩かったのかこの兵団……つか、クリスタェ…やっぱりお前の仕業か!)
ユミル(余計な気遣いしやがって…)チッ

室内に入ると、エレンはユミルのベッドまでバツが悪そうにふらふらと近づく。
ベッドの前まで来ると、ユミルを起こさないようゆっくりと腰を下ろした。

エレン「うーん…顔がよく見えねぇな…。熱があるとか言ってたけど、熱測るのに顔動かしたら起きちゃうよな。とりあえず、額に手を当ててみるか」

ユミル(…!)ビク

エレンはゆっくりとユミルの額に手を当てる。
ユミルは起きてることが悟られないよう必死に動かないよう努力していた。

エレン「うーん。まだ熱が下がってないみたいだな。熱い…そしてなんだかヌメヌメするな。寝汗がひどいのか?」

ユミル(~~~/// は、恥ずい。でもドキドキして冷や汗止まんねぇし、あぁもう!///)プルプル

エレン「とりあえず、クリスタあたりにあとで伝えておくか。このまま汗まみれでいても症状が悪化するだけだしな」

そういうとエレンは、そっと手をどけて、じっとユミルの頭を見る。
ユミルは黙ったまま、布団をかぶっている。顔は真っ赤で、心臓バクバク、汗ダラダラ。
室内は静かに時を刻む。

エレン「…」

ユミル(な、なんか喋れよ…気が紛れない…)///

エレン「…なぁユミル…なんかお前のこと困らせちまったのかな俺…」

ユミル(そうだよバカヤロー!)///

エレン「ごめんななんか…俺不器用だったから、どうしたらいいかわかんなかったんだよ。だから、アルミンやクリスタに協力してもらって、お前と組む回数増やしてもらったりしたけどさ…それが結局お前を悩ましちまったのか…」

ユミル(…)

エレン「でもさ、まだお前には伝えられてないけど、好きになっちまったのは本当なんだ。お前を悩ませて、こんな目に合わせるつもりなんかなかったんだ」

ユミル(…ッ!)/// カァァァァ

エレンはため息をつく。
今日何度目のため息だろうか。任せっぱなしのエレンだったが、エレン自身も思うところはあったようだ。

エレン「…俺なんかが誰かと付き合えるわけない、付き合えても不幸にしちまうって…そう思ったんだけどさ。アルミンに、悲観的になるな!どうせ残酷な世界なら後悔なく生きろ!って、そう囃されて目が覚めたんだ」

ユミル(…)///

エレン「俺、お前が好きだわ」

ユミル(~~~~!!!?/// だ、誰だこのイケメン/// …クソ、寝てるのを良い事に調子のいいことを…!起きてやろうかチクショウ)

エレン「……って、寝てるところに告白しても意味ねぇけどな。ハハハ、結局褒め殺し作戦、今日はできなかったなぁ、ははは……はぁ…帰るか」

エレンはそう言うと、ユミルの布団をかけ直し、ベッドからゆっくりと立ち上がる。
「お休みユミル。ゆっくり休めよ」とつぶやいて兵舎から出て行った。出て行ってからしばらくして、ユミルは布団を吹き飛ばし、ベッドの上で悶え転がる。

ユミル「うぅぅぅぅ~~/// つ、ついに告白されちまったぞオイ…!///」ゴロゴロゴロ

ユミル「きょ、今日一日使ってエレンのこと区切りつけようと思ったのに…!なんだなんだ、トドメ刺しやがって…ッ!/// 余計意識する羽目になっちまったじゃねぇか!うぅぅぅぅ~~~///」ゴロゴロゴロゴロゴロ

顔の赤みは最高潮。ゆでダコとはまさにこの事である。
冷や汗で、体は水をかぶったようになっていたが、そんな状態も気にせずユミルはベッドの上を転がりまわる。

ユミル「うぅぅうぅぅううぅ~~~!!!!…ッッ痛ぇ!!」ドテン

いい加減転がりすぎて、ベッドから落ちてしまった。

ユミル「がぁぁぁぁ!!痛ぇぇ!!…もう最悪だ。なんて日だ今日は!クソックソ!///」

落ちた痛みで、ズキズキする腰を抑えながら、再び床に悶え転がるユミル。
転がりながら、ユミルはエレンがつぶやいた内容を反芻し、思い返す。

ユミル(アイツ…結構マジで私のこと好きみたいだな…冗談とか、嘘じゃ…ない…んだよな/// …うぅ。明日からどう顔向けすりゃいいんだよ)///

結局、夕飯を終えたクリスタが来るまで、顔を真っ赤にして再び床で転げまわるユミルだった。
クリスタの諭され、なんとか転げるのをやめたが、落ち着いてから夕方のことを思い返すとまた症状が悪化し、とうとう汚言癖にまみれたユミルの口が翌朝まで閉じ続けるという珍事を招いたのであった。

一方エレンはというと、アルミンに本日の作戦失敗を伝え、翌日以降の作戦について話し合うこととなった。


------
翌朝。兵舎裏にて。
エレンとアルミンは昨晩話し合った内容について、再度確認をした。

エレン「で、結局、今日もユミルと刺しで会えばいいってのか」

アルミン「うん。それであってるよ。また僕らがサポートするから、それに適当に合わせてくれ」

エレン「わかった。あとは、以前より好きだーって言葉をたくさん入れればいいんだな?」

アルミン「うん。意識的に出すのは難しいかもしれないけど、そこは頑張ってくれ」

エレン「わ、わかった。頑張ってみる」

二人が作戦を確認していると、クリスタが近づいてくる。

クリスタ「お~い、アルミン!エレン!」タッタッタッタッ

エレン「おおっ、クリスタじゃん。おはよう!昨日は悪かったな」

クリスタ「ううん、いいの。気にしないでっ。おはようエレン、アルミン!」

アルミン「おはようクリスタ! あぁそうそう、それで今日のことなんだけど…」

クリスタ「あっ、作戦の前に私から報告があります!」ビシッ

エレン「報告? ユミルになんかあったのか!?」

クリスタ「あっ、いや、違う違う!体調が悪くなったとかはないよ?」

エレン「そっか」ホッ

アルミン「はは。ユミルが好きだー付き合うぞーって決めてからのエレンは、ミカサ並に過保護だね」

エレン「う、うるせぇぞアルミン!好きな相手を気にかけて悪いかッ!」

アルミン「ははは、ごめんごめん。 で、報告って何?クリスタ」
アルミン(そう思うんなら、一足先にミカサの想いにも気づいて欲しかったけどなぁ…;)ハァ

クリスタ「あ、うん。それがね、ユミルが昨日エレンが部屋から出たあとからおかしいの。どうもエレンが何か言ってるのが聞こえたみたいで…」
エレン「おかしい?…昨日?」

アルミン「そうなの? エレン心当たりある?」

エレン「…いや、俺は別に何も………あっ」

エレン「」

エレンは昨日のことを思い返し、自分がつぶやいた独り言を思い返す。
見る見るうちに顔面が蒼白し、真っ白に固まってしまうエレン。

クリスタ「え、エレン!?…うわ、真っ白に燃え尽きてる…」

アルミン「うわっ、ちょ…思考停止する前に、状況を教えて!エレン、ねぇ!」ユサユサ

アルミンがエレンの肩をゆすりながら、昨日のことを催促する。
揺するたびに、白い灰と成り果てたエレンから、コスリコスリと白カスが出ているが、しばらくして我を取り戻す。

エレン「…ハッ。…す、すまん。固まってしまった…」ハッ

アルミン「大丈夫かい?」

エレン「あ、あぁ…一応は…。やべぇよアルミン、昨日ユミルに告白しちまった…」

アルミン・クリスタ「「えっ」」

エレン「ユミルが寝てるって思って、そのまま何もせず帰るのもクリスタとかアルミンに悪いと思ってさ…そん時思ってることとか、好きだーってこととか、ぼそぼそつぶやいちまってた…もしかして、コレが聞かれてたんじゃ…」

アルミン・クリスタ「「」」

冷や汗を垂らすエレンに対し、展開が二転三転先に進んでいることに絶句するアルミンとクリスタ。

数十秒の間が開いた後、アルミンがハッと意識を取り戻して口を開く。

アルミン「」ハッ

アルミン「いや、エレン。よく考えるんだっ。これはかなり最短でユミルと付き合えるチャンスかもしれないぞ!」

エレン「えっ、そうなのか…? …いや、でもさ、コレ聞いてユミルがおかしくなったってことは…嫌われたんじゃねぇのか俺」

アルミン「違うって、多分!どうして君は、色恋沙汰になるとチキン野郎に成り下がるのさ!…ね、クリスタ。おかしいって言ってたけど、怯えてたり、怒ってたりしてる訳ではなかったんでしょ?」ユサユサ

クリスタ「ひゃっ…! え、えっと。う、うん。そうだよエレン。怯えてたりはしてないよ!怒ってたりはしてたかもしれないけど、あれは照れ隠しだよ!…しばらくして、顔真っ赤にして黙り込んじゃったし!」ハッ

アルミン「ほらっね!エレン、これはチャンスだ。エレンは昨日のうちに、ショートカットしたんだよ!元々ユミルも悪い気はしてなかったんだし、ちょっと危ない賭けだったと思うけど、君は知らず知らずのうちにショートカットに成功していたんだ!」

エレン「そ、そうなのか…じゃ、じゃぁ、今日はどうすればいいんだ? 褒め殺し作戦から、好き好き作戦にするって言ってたけどさ」

アルミン「あっ、あー…どうしよっか。ショートカットできて、チャンスだとは思う。だが、不安要素は残る…このまま作戦を続行した方が無難だとは思うけど…」ウーン

クリスタ「いや、だめだよアルミン!鉄は熱いうちに打て、って言うでしょ?だから、今がチャンスだと思う。チャンスが巡ってる内に攻めとかないと、次があるとは限らないでしょ?」

アルミン「…う、ん。そうだねクリスタ。エレン、今日は小細工抜きで、デートに誘え」

エレン「で、でーと…」ゴクリ

アルミン「あぁ、デートだ。場所はどこでもいい。どうせエレンにお洒落なデートは出来っこないし、ユミルの性格からして、そんな小洒落たモノはも気後れしてしまうと思う。だから、街を二人でブラブラして遊んでるだけでもいい。とにかく、今週末にデートに誘うんだっ」

エレン「わ、わかった。とりあえず、デートプラン云々は後回しにして、今日は誘うことに専念する」

アルミン「あぁ、そうしてくれ。デートの終わりに告白してもらうけど、そこはあとでまた話しあおう」

エレン「うぇぇ!?告白まで行くのかっ!?マジか」

クリスタ「何言ってるのエレン!実はもう告白できてんだよ! 今度は本人が起きてる所でするだけなんだからっ!」

エレン「そ、そうか…。そういやそうだよな…やべぇ、起きてると気づかなかったとは言え、随分だいそれたことしたな俺…とりあえず、後でそれは考えるっ。今はデートへの招待を実行する!」ヨシッ

アルミン「うん。じゃぁ、早速今日の打ち合わせをしよう!作戦が変わったから、まず訓練で…」

アルミンとクリスタは真剣な表情デ、エレンと本日の作戦について打ち合わせを始める。

やや暴走気味のクリスタとアルミンの気迫に、若干気後れするエレンだったが、二人の真剣さを感づき、真面目にその作戦を拝聴する。

いよいよ作戦開始である。


しおり04
------
日中の訓練が終え、エレンは再びユミルの兵舎へと向かう。
昨日高熱が出る風邪を引いてしまったので、今日もユミルは休みだった。
もちろん教官への入室許可を今日ももぎ取っていた。少々危なかったが…。

今度は狸寝入りされないように前もってクリスタがユミルの元へ先回りすることにした。
エレンが兵舎につくと、すでに兵舎の中ではクリスタとユミルが談笑している。

ユミル「クリスター私の嫁ぇー!今日は寂しかったぞぉ~!」キャッキャッ

クリスタ「あぅ!も、もう。だめだって!体調悪いんだからふざけないで!」ウフフ

ユミル「良いではないか~良いではないか~」ウシシ

クリスタ「も~!」

なんだか既にデキてるカップルのようだった。
エレンは、そこはかとなく修羅場が待っているのではないかという不安と、これは実はフラれるパターンなのではという絶望感の中、恐る恐るドアをノックする。

エレン「お、おーい。ユミル!入るぞー」トントン

ユミル「えぇーいいじゃんクリスt…ふぇっ!?え、えれ、えれれん??」///

クリスタ「あっ、はーい。いいよエレン、入ってきて」

ユミル「えっ…あ、おい!クリスタ待て…――」

エレン「う、ういーす」ギィィ オソルオソル

クリスタ「ようこそエレン!女子寮へ!」

エレン「おうっ!…つっても昨日すでに来たがな」バタン

クリスタ「あはは、そうだったね。ささ、こっち来てエレン」ポフポフ

ユミル「」カチンコチン

エレンはノソノソと兵舎の中に入ると、クリスタに催促されるまま、ユミルのベッドの上に座る。
当のユミルは、驚いて固まっている。心なしか、クリスタと戯れていた時より顔が赤い。

エレン「よ、よう、ユミル。調子はどうだ?熱、下がったか?」

ユミル「…あっ、いや…フ、フン、下がってるよ。あんたに気を使われる日が来るなんてねっ」/// プイ

ユミルはエレンへの応答にそっけなく答え、ソッポを向く。
そんなユミルにクリスタはニコニコと笑い、エレンに言った。

クリスタ「あはは、ユミルは大丈夫だよ!ただ大好きな人が来て、ちょっと照れてるんだよねっうふふ」ニヤニヤ

ユミル「なっ!?/// クリスタ、あんた!!」

クリスタ「ふふ、ごめんねっユミル ――…あっ、ごめーん二人共!ちょっと忘れ物しちゃった!席外すね(棒読み」タタタ

ユミル「あっ!おい待て!まだ……行っちまった」

クリスタはわざとらしく言い訳をし、強引に席を立つ。

クリスタがすべて分かった上でこの状況をわざとらしく仕組み、その状況を楽しんでいると思い、ユミルは内心イラッとした。

ユミル(く、くりすためぇ…絶対楽しんでやがるぞアイツ…)
ユミル(私の嫁だろうと、許さん。あとでシメてやる……ホントどうすんだよこの状況…)///

エレン「行っちまった…クリスタ、何忘れたんだろうなぁ、あは、あはは;」

ユミル「…さぁな」

エレン「そ、そっか…」

ユミル「…」

エレン「…」

エレン・ユミル(気まずい)

ユミル(こ、これじゃぁ寝てる時と一緒じゃねぇか…なんか喋れよエレン…)///

エレン(ま、まずい…事前に聞いていたけど、二人っきりは、なんか意識しちまう…)///

ユミル「………ぉぃ、なんか喋れ」///

エレン「あ、あぁ…ユミル。体調はどうだ?」

ユミル「ん。クリスタも言ってたけど、そう悪くはない…。寒気も頭痛もなくなったし、あとは熱が引くだけだ」///

エレン「そうか…」

ユミル「…あのさ、見舞い…」モジモジ///

エレン「…は?」

ユミル「チッ…だから、見舞いに来たんだろ?私の。 なんか見舞い品持ってねぇの?」モジ///

エレン「あっ…すまん。えっと」ゴソゴソ

ユミル「早くしろよ。私は短気なんだ…」///

エレン「…! っと、これだこれ。ほい」

ユミル「おっ!エレンお前やるじゃねぇか! 街で有名な菓子店のクッキーじゃん!」

エレン「あぁ。 なんかお前が好きだってクリスタから聞いたから、急いで外出届出して買ってきたんだ」

ユミル「おぉおぉ!さすがは私の嫁! いやぁ、腹へって参ってたんだ。食べさせてもらうわ!」

エレン「あぁ、食え食え!お前のために買ってきたんだし」

ユミル「サンキューエレン! はむっ、はむはむはむっ! くぁーうめぇっ!」ムシャムシャ

ユミルはエレンからの見舞い品を強引に奪い取り、ムシャムシャとクッキーを頬張る。
体調不良でろくろく食事を取っていなかったため、すごい勢いで食べていく。
そんな姿を見て、エレンは緊張がほぐれ、微かに笑う。
エレン「はは。んながっつくなよ」

ユミル「う、うるせぇ!/// 一日以上ろくに飯食ってねぇんだ、腹も減る!///」モグモグ

エレン「たしかにっ!違いないな。 しっかし、ぷ、くくッ…そんな風に食ってると、まるでサシャ見てぇだな」アハハ

ユミル「い、芋女なんかと一緒にすんじゃねぇよ!/// そこまで私は食い意地はってねぇ!///」ムシャリムシャリ

エレン「わりーわりーっ、はは。腹減ったユミルも、なんか可愛いな」ケラケラ

ユミル「か、かわっ!?おま、そんな簡単に可愛いとか言うんじゃねぇ!」カァァァァ///

ユミル「…あと、…他の女の名前、出してんじゃねぇし…」ボソ プイッ

エレン「…あ、えっと…」ブァッ///

ユミル「…ぁ…」///
ユミル(うだぁぁぁあああああー!何いってんだ私!!? 今気まずい雰囲気駆逐できてたろっ!? あぁぁ、また気まずくなって…あぁぁ///)

エレン「…」///

ユミル「…」///

ユミルの不意に出た言葉から、再び沈黙の時間が流れる。
他所を向くユミル、俯くエレン。二人の頬は真っ赤だった。
しばらく気まずい雰囲気が漂う中、エレンは顔を上げ、意を決して口を開く。

エレン「……あ、あのな、ユミル」

ユミル「…なんだよ」///

エレン「お前、昨日見舞いに行った時…起きてただろ?」

ユミル「…ッ」/// ビクッ

エレン「…あぁ、やっぱり…。…じゃあ、多分昨日つぶやいたこと、…全部聞いてたんだよな…」

ユミル「…」///

エレン「…あれ、俺の本心だから…。別に返事がほしいわけじゃない。ただ、聞いて欲しかっただけなんだと思う…起きてるお前に面と向かって言えなかったから、ああいう形になっちまったけどさ」

ユミル「…」///

エレン「…でも、さ。もしも、YESなりNOなり、答えをくれるんだったら…週末、デートしないか…?」

ユミル「…!」バッ///

エレン「その時に、答えを聞かせてほしい」

ユミル「……~~~~~~」///

ユミルの顔は相変わらず他所を向いていたが、その目はおもいっきり見開き、口をパクパクさせていた。
動揺が顔にモロに出ていたのだった。

エレンも自分がくさいセリフを吐いていることは自覚していた。
けれど、自然と口からそのセリフは出てきた。
きっと、沈黙が終えたあと、作戦中の一週間のように、また有耶無耶になると思ったからなのだろう。
エレンが問いかけて、ユミルがそっぽを向き、逃げていったあの一週間のように。

アルミンの煽りで目が覚めたエレンは、先ほどの沈黙の中、あの一週間あった出来事を思い出し、後悔したくないという想いを再び噛み締めていたのだろう。 クリスタやアルミンが、ここが勝負時だ!そう言っていたことを、エレンは素直に受け止め、デートでケリを付ける覚悟をした瞬間だった。結果がどうあれ、エレンにとって、好意をぶつけることはこれが初めてだった。自分が真剣になると決めたことには真っ向から立ち向かうエレンにとって、アルミンたちが言っていた勝負時は、巨人を前にした時と同義の真剣の場面だった。だから、素直に、思ったことを口に出したのだった。

ユミル(で、ででで、デートだと!? いやいや待て待て!色気もねぇ死に急ぎ野郎がこんな誘いを… つか、わ、私なんかでいいのかアイツは?! って、何考えてんだ私は!? あぁ~~クソッ、昨日から不意打ちが多すぎるぞオイ!)

エレン「………だめ…か?」ジッ

エレンはユミルにそう言うと、じっとユミルの瞳を見つめる。
ユミルは耐え切れず、口元を震わせながら、声を出す。

ユミル「…そ、その……別、に…いい…」//// プルプル

エレン「…え?」

ユミル「…だ、だから!別にッ!いい!っつってんだよッッ! し、死に急ぎ野郎の付き添いに、い、いいい、行ってもいいつってんだ!何度も言わせんなカスッ」///// プルプルプル

エレン「ほ、本当かっ!? 本当に、デートに来てくれんのかユミル!」ガバッ

ユミル「あぁ、別に構わねぇよ!付き添ってやるよクソ野郎!」///

エレン「ッ! ッシャ!ははっ、ありがとなユミル!」ガッツポーズ

ユミル「そ、そのかわりなァ!楽しくなかったら、すぐ帰っちまうからな!ちゃんとエスコートしろよッ」///

エレン「あはは!あぁ、構わねぇ!そんくらい任せろってんだ!」

ユミル「チッ、嬉しそうにしてんじゃねぇよ… ほ、ほら。食っちまえよ。私一人で食いきれる量じゃねぇから、エレンもクッキー食えよッ」///

エレン「あぁ!あぁ…! ありがたく頂くな、ははっ」

相変わらずユミルは壁を向き続けてるが、手元にあったクッキーの籠を乱雑にエレンに突き出す。
エレンはクッキーの籠を受け取り、自分も頬張る。
食べたクッキーは、思ったよりも甘かった気がする。

それから、エレンはユミルと休んでいた座学や訓練の話、クリスタのこと、その他いろいろと他の女子訓練兵が帰ってくるまでおしゃべりし続けた。
はじめのうちは、変なお誘いの受け方をしたので気まずい空気が流れていたが、話していくうちにいつもの二人に戻り、最後は下品に笑い合って、別れを告げた。


こうして、ユミルとエレンのデートは約束された。
そして、再び一週間が経ち、デート当日になる…。


しおり05
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アルミン「エレン!準備はできた?」

アルミンは大声でエレンに確認をとる。
今日の兵舎内は、いつもよりちょっぴりざわついていた。

エレン「ま、まてアルミン!まだ服が…!」

ベルトルさん「あーぁ。違う違う。ボタンかけ間違えてるよエレン!」

エレン「だ、だってよ。俺こんな服着たことねぇし…!あっ、クソ。うまく行かねぇ…!」

ライナー「ははは、エレンお前手が震えてるぞッ!一人前の兵士になれねぇぞお前」

エレン「う、うるせぇなライナー。くっ、この!この!」

ベルトルさん「あはは;…しょうがない、エレン、手を離して。僕がやってあげるよ」

アルミン「はぁ…君がこんなに緊張してどうするんだ。エスコートできないだろ…」ハァ

ユミルのデート当日となった本日。
デート当日になって、ろくな私服を持っていないことが発覚し、大急ぎで同期の訓練兵たちから服をかき集める自体に陥ったのがことの始まる。
結局、エレンがユミルを好きで、ユミルとエレンが今日デートをすることは、これをきっかけに男子訓練兵一同に知れ渡ってしまう。だが結果的に、実際のデートであのダサいシャツを着ていくという最悪の事態を回避することができた。

ジャン「あー、しかしエレンがブサイクとなぁ… ま、ミカサは俺がもらっていくぜ」ケラケラ

エレン「あぁ!?ユミルはブサイクじゃねぇよ!可愛いんだよ馬面野郎!!」グワァッ

ジャン「うるせぇ悪人面!!」ガバッ

エレン「んだと?!やるかクソッタレ!」

ジャン「あぁいいぜ!来い!独り立ちもできねぇ死に急ぎ野郎がぁ!!」

マルコ「ふ、二人ともぉ!こんな時まで喧嘩しなくていいだろっ!?」

アルミン「エレン、どーどー。落ち着いて、どーどー。デート行くんでしょ?遅刻しちゃうよ!?」

エレン「」フシューフシュー

ジャン「」フシューフシュー

ベルトルさん「はぁ…先が思いやられるな… あっ、エレンこっち来て。まだボタン全部閉めてないから」

ベルトルトはエレンのシャツを整え、ボタンを締め直す。

上は白い半袖シャツに赤いチェックシャツ。下は無難に濃い目のGパン。靴はブーツを履いているエレン。

アルミン「…うん。即興で集めた割に、結構悪くないんじゃない?」

マルコ「サイズ的にほとんどジャンのだけどね」

ジャン「けっ…感謝しろよ」

エレン「なんか気に食わねぇけど……その、ありがとな…」

ジャン「ふんっ」プイッ

アルミン「あっ!エレン!もう時間だよ!!」

エレン「ぅぇえ!?うわ、ホントだ!まずい、行ってくるわ!!」ダダッ

ベルトルさん「うん!いってらっしゃい!」

ライナー「おう!漢見せてこいよエレン!」

アルミン「いってらっしゃいエレン!結局僕は何もできなかったけど、きっと今日のデートですべてのケリがつく!大丈夫、エレンなら、気軽にすれば絶対成功するから!がんばって!」フリフリ

エレン「あぁ!わかったよアルミン!あと、ありがとう皆!」フリフリ

駆け出すエレンの背中を見送りながら、男子訓練兵一同は武運を祈る。

内心、上位のべっぴんさん(ミカサ、アニ、クリスタ)の脅威となりえる存在が減ることに、ほくそ笑んでいる者も多いことは伏せておこう。

ライナー「ふっ…アルミンたちがなんかやってると思って、今までそれとなく空気合わせていたが、まさかユミルなんてなぁ…」

ベルトルさん「ねー。意外だよね。てっきりミカサだと思ってたし」

ライナー「いやいや、我らがアニだろ…あいつ顔には出さないけど、結構惚れてたっぽいし」

ベルトルさん「本当かい…? あー、アニだったら丸くなってちょうどよかったのかな?」ハハ

ライナー「違ぇね!ハハハ、…頑張れよ、エレン!」

ミカサ「」

ライナー「」

ベルトルさん「」

ミカサ「…ちょっと。どういうことか説明して」ゴゴゴゴゴ

ライベルさん「ひっ」ガタガタ

ミカサ「誰が…誰を、好きだって…?」ゴゴゴゴゴゴゴ

ライベルさん「」ジョワァァァ…ガタガタブルブルブル

きっと、何から何までスムーズに物事が進むのだろう、そう思われたデート当日。
筋肉ダルマとヒョロヒョロゴボウの犠牲と共に、不穏な影がエレンとユミルの背後に忍び寄る。

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ユミルSIDE

ユミル「わっ、まてクリスタ!いい、いいってそんなの!」

クリスタ「だぁーめ!デートくらいキチンとした格好しなきゃだめだよ!」

ユミル「いいってそんなのさ!このシャツと短パン着てくから!」

クリスタ「だめっだめだめだめ!メッ! ユミルってスタイルいいし、顔だってそんな悪くないのに、ろくな私服持ってないんだもん!そんなボロボロの私服じゃだめだよユミル!私の貸してあげるから、これ着てくの!」バッ

ミーナ「あー!じゃ、私もこれ貸してあげる!」ババッ

ユミル「ひっ!お、おいミーナ、そのフリフリを私に着せる気か!? クソ、ミーナもクリスタもが活き活きしてやがる…」

ユミル側もエレンと大して状況は変わらなかった。
私服に無頓着なユミルもまた、ろくな服を所持していなかった。
そのため、デート当日に、よれた短パンと色あせたシャツで街に行こうとするユミルはクリスタに発見され、説教を受ける羽目に。
結局、エレン×ユミル作戦の関係者であるクリスタとミーナから、コレだ!とおもわれる服を並べられ、着せ替え人形と化してしまうユミル。

ユミル「だ、大体さ!あの死に急ぎ野郎だって、芋の収穫袋みてぇなダセェ服で来るに決まってんだろ?!入団してから、あれ以外アイツの私服なんて見たことねぇしさ!! なんで私だけ洒落っ気出さなきゃならねぇんだ!」

クリスタ「その言い訳は通らないよユミル!事前にアルミンがエレンの服を指導する手はずなの!デートが決まってから、話し合いでそうなってるんだから!」

ユミル「くっ、もう隠しもしねぇのか!!やっぱお前らグルだったんだな!!」グワッ

クリスタ「ふふっ、まぁね!ユミルには幸せになって貰いたいもん!あんな一途になれるエレンなら、ユミルは絶対に幸せになる!」ワクワク

ユミル「開き直りやがって…ッッ!」ギロッ

ミーナ「さ、観念するのだユミル!」ワキワキ

クリスタ「デートまでは時間がある!ユミルを美少女にイメチェンするわよ!」ワキワキ

ユミル「ヒィッ!ま、まて、やめろぉッ!やめてくれぇ!…く、来るなぁ…ッ!!」ガタガタ

小一時間。
小一時間もクリスタとミーナの着せ替え人形となったユミルは、目から光を失った。

白のワンピースドレスに黒いヒールを履いたユミルがとよろよろと兵舎から出て行き、街へと向かっていった。


------
時刻は午前11時。
街中央部にある時計塔で、二人は待ち合わせをしていた。

エレンが兵舎を出た頃、先にユミルが時計塔までたどり着いていた。


ユミル「………」

ユミル(け、結局一時間くらい着せ替え人形になっちまった…で、デート当日なのに、もうつかれた…帰りたい…)ゲソ

ユミルは、時計塔下のベンチで、猫背で腕を下に下げ、だらーんとした体勢でうなだれる。
時分は春に入ったばかり。まだまだ涼しい風が頬をかすめ、わずかに日差しがさす昼時である。
風は冷たいのに、気温は暖かい。そんな春時の街中、ユミルは精神的疲労で表情が陰っていた。

ユミル(…つか、こんな格好…私なんかに本当に似合うのか…白い服なんて着たことないし、足がスースーするし、周りの視線が気になるし…そもそも化粧なんて、私の顔に合うわけがない。使ったことないからそう評価下すだけの知識も技量もないけど…絶対私には似合わない…)

ユミルは、初めてする格好と、初めての化粧に戸惑いを隠せない。
ただ普通にエレンと出かけて、普通にしゃべって、普通に兵舎へ戻るつもりだったから、
こんな、“普通の女の子”がするようなオシャレをして、めかし込んで、休日出かけるつもりなんかなかったのだ。

自分の容姿に自信がない盗人娘は、容姿に関してこの上なく自尊感情が低い。
日頃の悪態に罵詈雑言の嵐を誰彼かまわずかますユミルからは、想像がつかない情けない顔だった。

エレンとの待ち合わせ時間まで、少し時間がある。
クリスタから借りたコンパクトミラーをポーチから取り出し、自分の顔を見てみる。

ユミル(…なんて情けねぇ顔だ…めかし込んでも私は私か…チッ…)

エレンを意識してからというもの、舌打ちが耐えない。

自分の理想と現実が違いすぎること、エレンの好意が嬉しいのに素直に答えられないこと…いろいろなフラストレーションが自分を苦しめ、その苦しみを吐き捨てるように舌から舌打ちが出てくる。

ユミル(…ファンデーションくらいしかしたことねぇから、この化粧が自分に合ってるかなんてよくわかんねぇし…見た目整って見えるけど、いつもの自分と変わんねぇ気がするし…風が気になるし汗が出るしなんかフワフワするし…あー、もうよくわかんねぇ…)グデーン

ぐでーっと、ユミルは更に深く猫背をする。
このまま一日過ごしたら、直角に腰が曲がった老婆になるんじゃないだろうか、そう思えるくらいに深く背を曲げる。
深く下げた頭は目線を地面に合わせる。見つめた地面には、アリの軍勢が列をなし、せっせと己が飯を運び続けている。
その光景を呆然と眺め、ユミルはつぶやく。

ユミル「…よくわかんねぇけど…もしもキレイだったら、エレンは褒めてくれるのかな…似合ってなかったら、どうしようか…」ボソッ

不意に自分の口から出た言葉が、今まで口にしたことのない乙女な発言で驚いてしまう。
不幸に抗い、幸せを掴む。
そう誓って人の世界に足を踏み入れたユミルが、初めて自分が幸せな時間を過ごしている証明を口にした瞬間である。
人の世界に入ってからは盗人、兵団に入団してからは、口の悪いソバカス娘。
ろくろく幸せを掴むと豪語した人間の体ではない。が、そんな自分が今初めて、人を好きになり、幸せなのかもと実感した瞬間であった。

ユミル「…だはは、私ってば、思ったより乙女なんだな。笑っちまうぜ」

数匹のアリを殺さないように軽く足で蹴飛ばし、通路を通せんぼしてみる。
アリたちは慌てて方向を変えて、列の陣形を再構築する。

ユミル「巨人の頃も盗人の頃も今も…色々あったけど、今の時間は案外悪くない。…はっ、今日は一日楽しんでみっか」

ユミルは顔を上げて、背を伸ばし、空を仰ぐ。
今日はなんだかいい天気である。絶好のデート日和だ。

ユミルが空を仰いでからしばらくすると、エレンが走って時計塔まで近づいてきた。
ゼェゼェと息を荒げながらエレンは時計塔に向かう。時計塔の下には既にユミルが空を眺めながら、座っていた。 時刻は12時半。約束の時間からは30分遅刻だ。

エレン「はっ‥はぁっ…んっ、と。ご、ごめんユミルッ!!遅れた!!」ゼェゼェ

ベンチに座っているユミルの前に立つエレン。膝に手を当て、下を向きながら息を荒げている。
息を整えて、再度ユミルの方へと向き直す。

エレン「ハァッ…ふぅ…ごめんユミル。アルミンたちが出際に俺の服がダセェとかいいやがって、着替えてたら時間食っちまった!」

ユミル「あぁ、やっと来たかエレン。痺れ切らして帰っちまうところだったよ///」ケラケラ

エレンが両手を合わせ、精一杯の謝罪をする一方でケラケラと笑うユミル。
何かを吹っ切りつつも、赤面混じりにユミルは軽口をたたく。

エレン「じゃ、仕切りなおして、でぇーとするか!」

ユミル「あ、あぁ!よろしくするぜ、王子様///」

エレン「おうじって…」///
エレン「わかった。じゃぁ行こう!」スッ

ユミル「お、おうよ」ガシ

手を差し出すエレンにユミルは恐る恐る手を伸ばし、つなぐ。
故郷を離れ、盗人まがいな生活をしていた頃に読んだ恋愛小説。
きっと縁がないと思いつつも、その小説に描かれた光景が今ユミルの前に広がっていく。
照れながらも、指を絡め、「ま、まま、迷子になっちまうから、しっかり繋がねぇとな!」と言い訳をする。
これは俗にいう恋人繋ぎ。 デートにふさわしい、愛の結び目である。

ミカサ「…」ス-ッ
エレンとユミルが時計塔から、露店街に移動している背後で、不審な人影が数名、ゆっくりと後をつけている。
距離は数十メートル。振り向けばギリギリバレる距離をこっそりつ付けている。

アルミン「ちょ…ミカサ待って。この距離はマズイって、もう少し離れて!見つかっちゃうよ?!」

ミカサ「…アルミン。それは出来ない。見つかってもいい。私はもっと近くであの雌狐がエレンに害をなさないか三原無くてはならない」ゴゴゴゴ

アルミン「だめだって!…はぁ、エレンの事になると見境ないんだから… いいかいミカサ。今見つかったら、エレンは君のことを嫌うと思うよ?」

ミカサ「…! それは…困る」

アルミン「でしょ?…そ、それにたかが女友達とのお出かけだよ?たまたま二人で出かけることになっちゃったんだから、仕方ないでしょ? ミカサだって、エレンの人付き合いについて思うことあったよね、相手が異性だろうとそれが促進されるんだったら、異存はないでしょ!」ガミガミガミ

ミカサ「それは…そうだけど…」

アルミン「でしょ! はい、ならこっち来てっ!もう少し離れるよ!」

ミカサ「でも…」

アルミン「デモもストもない!おいでったら…!」

ミカサ「………うん」シュン

エレンが兵舎を出たあと、ライナーとベルトルトは半殺しにされた末に本日のことを吐いてしまう。
それを聞いたミカサが、アルミンに確認を取って、尾行することを決意。結局アルミンは無理やり尾行に連れ出されることとなった。

アルミン(はぁ…こうなることは予感してたけど……やっぱりそうだった…。 けど、細かい所までバレなくて本当に良かった…)

だがその吐いた内容はデートをするという事だけで、実は告白済みだったなんてミカサは知る由もない。

アルミン(もしバレてたら…今頃…)ブルッ

きっとライナーとベルトルトは半殺しでは済まず、ユミルとの血で血を洗う戦いが始まっていたに違いない。
エレンたちから50m以上離れた建物の影に一人、マントを着て、フードをかぶった小柄な女子がいた。
少女はアルミンたちに手を招き、声を出す。

アニ「ちょっと…こっち来るなら早く来てよ。見えないじゃないか」

アニである。

アルミン「あ、あぁ。ごめんごめん、ほらミカサ!早く!」

ミカサ「…うん」トボトボ

実はミカサたちが出る時、どさくさに紛れてアニも付いてきていた。
暇だから何だからと適当な言い訳をつけたが、たぶんミカサ同様の理由なのだろう。
これで、好き好き大好きぶっきらボーイ(エレン)大好き系女子勢揃いである。

そんな良からぬ輩が尾行しているとは知らず、
エレンとユミルは、露店街を意気揚々と闊歩する。
週末なので、露店街の込みようはひどく、常時平日夕方の混み具合である。

エレン「うへー、思いの外混んでるな…」

ユミル「仕方ねぇだろ日曜なんだし…それよりエレン。私は腹が減った、なんとかしろ」

エレン「あー。俺もだ…。どうする?食べ歩く?それとも店に入るか?」

ユミル「ん。そうだなぁ…食べ歩いたほうが楽だし、いいと思うが…」

ユミルは周囲を見渡して、昼食を食べるのに丁度いい店を探す。

ユミル「…あっ」

ひと通り見渡したあと、露店と露店の間にある一つの店に目をやる。

ユミル「うしし、ちょうどいい。 おいエレン、あっち行くぞ」///

エレン「あっ、ま、待てって」

ユミルはエレンの手を引っ張り、その店に向かっていく。
店の名前は「ラプンチェル」。外観は他の建物同様にレンガ造りだが、店の看板や雰囲気は今時のフレッシュさを伴う。
具体的には、レンガ造りに木製のテラスという昔ながらの店内に、花がたくさん飾られ、テーブルにはピンクや黄色をふんだんに使ったカラフルな刺繍のテーブルクロスがしかれている。
店先の看板には、「カップルキャンペーン!カップルで来ると、半額割引ます!」などと書かれていた。

エレン「おい…これって…///」

ユミル「い、いいだろ別に! とと、とにかく行くぞエレン!訓練兵の安月給じゃ贅沢できねぇんだし!」

店内に入ると、ふりふりのドレスを着た店員が現れ、カップルかどうかを聞いてくる。
ユミルは「カップル、です…」と小声で言うと店員は「わかりましたっ、ようこそラプンチェルへ!カップルのお客様には確認のためお名前のご記入をお願いしております!こちらへご署名ください」と言われ、言われるがまま二人は名前を記入した。そのまま店員は二人を角の席に案内する。
外で見たとおり、店内は実にカラフルだった。店の中はキャンペーンもあってかカップルだらけである。

ユミル(エレンの反応見たさと、私が入ってみたいっていう理由で勢いつけて来ちまったが…)

ユミル(は、はずい///)

エレン「お、おい…なんか気まずくねぇか…///」


ユミル「うるせぇチキン野郎…! 男ならドスンと構えやがれ!」

エレン「いや、そういう話じゃねぇだろ…///」

ユミル「そういう話なんだよ!黙ってメニュー見てやがれ!///」

エレン(マジかよ…本気でカップルだらけじゃねぇかコレ…/// うぅ、まだ返事も聞いてねぇのに恋人みたいなことするとか、完全に想定外だぞ///)

メニューで顔を覆い、ブツブツと何かを呟き続けるエレン。
巨人の話題をしている時の屈強な悪人ヅラも、今は見る影もない。
対するユミルも顔を赤らめながらも、必死にメニューを眺めている。
しばらくして、店員がメニューが決まったか催促にやってきた。

ラプンチェル店員「ご注文はお決まりですか?」

ユミル「あぁ、決まったよ。こ、この、「らぶ♥らぶ 愛のランチセット」をカップル分頼む///」

エレン「えっ/// いやまだ決まって」

ユミル「うるせぇ黙れ!わた、私が頼みたいんだよ!」

エレン「そ、そっか///」

ラプンチェル店員「かしこまりました。では、メニューを」

ユミル「ん///」

エレン「ん///」

ラプンチェル店員「ではごゆっくりラブラブしてくださいねっ!恋人さんたちっ♪」

ユミル「ひぐぅ…///////」

エレン「/////」

啖呵を切って、特攻したが、さすがにこの店はやりすぎたと少し後悔するユミル。
デートの後にエレンへの返事をするつもりだが、楽しみすぎて先走ってしまったらしい。
赤面沈黙が続いた後、おおよそ10分程度で頼んだメニューがやってきた。

ユミル「」////

エレン「」////

絶句である。
届いたランチセットは、オムライスは二人前ほどの大きなものだった。しかしその中央には、ケチャップで大きめのハートマークが書いてあり、その両サイドにエレンとユミルの名前が書いてある。

ラプンチェル店員「お待たせいたしましたお客様。こちら本日のカップルセットでございます。不躾ながら、このセットには半額条件がございますが、お聞きいたしますか?」

ユミル「条件…? よくわからねぇけど、聞きたい。言ってくれ」///

ラプンチェル店員「かしこまりました。こちらのランチセットは、カップル仕様ですので、すでにテーブルにございますスプーンで、恋人さんに食べさせてあげてください。つまり、恋人さん同士で食べ合いっこしていただくことが、ランチセット半額の条件でございますっ☆」

ユミル「えっ…食べさせる…?」///

ラプンチェル店員「さようでございますっ♪ 普通に食べていただいても構いませんが、その場合、半額は取り消しさせて頂きます。お値段はざっと…」

ユミル「」

店員はメニューを開き直し、ランチセットの項目を指さす。
ユミルはメニューを頼むとき動揺して特に値段を見ていなかったが、ざっと通常のオムライスの10倍以上の値がついていた。

ラプンチェル店員「では、ごゆっくりラブラブしていってくださいね!」サササ


ユミル「」///
ユミル(た、たたた、食べ合いっこだと!! エレンをおちょくるためと、ちょこっと恋人気分を味わうために入ったのに、こいつぁとんでもねぇプレイさせる店に入ってきちまった…///)

エレン「食べ合いっこ……///」

ユミル「よ、よし。食べ合いっこしよう。頼んじまったもんはしょうがない。行くぞエレン///」

エレン「あ、あぁ…///」ゴクリ

ハート型のスプーンでオムライスを掬い、プルプルとエレンの口元へ持ってくるユミル。
エレンは口を少し開き、パクリと食いつく。

エレン「」ゴクリン

ユミル「ど、どうだ?うまいか?」

エレン「わ、わかんねぇ…/// 好きな奴とこういうことすんの初めてだし…///」

ユミル「そ、そっか///」

エレン「///」

ユミル「///」

エレン「次は、俺が行くぞ」

今度はエレンがスプーンでオムライスを掬い、ユミルの口元へと運ぶ。
ユミルは口を小さく開き、ゆっくりとスプーンを加える。

エレン「ど、どうだ?」

ユミル「うん…その…美味しい、かな?///」

エレン「そ、そっか///」

エレン「///」

ユミル「///」

見ていてこっちが恥ずかしくなる初々しさである。

ミカサ「」ゴゴゴゴゴゴゴ

アニ「ぁ…いいな…私もやりたい…」ボソ

アルミン「ミカサミカサ、殺気抑えて!あとアニは本音漏らしすぎ…」

エレンすきすき女子たちも、ラプンチェル店内にいた。
エレンたちのいる席とは違う角の席である。エレンたちとは、十個以上席が離れているため、目立たなければ見つからない距離である。
もっとも、エレンたちは自分たちの世界を構築しているため、近かろうが遠かろうが気付かないだろうけれども。

ミカサ「アルミン…あれは…何」ズゴゴゴゴゴ

アルミン「いや、で、デートかな…はは」

アニ「デート、だろうね…。羨ましい…今度エレン誘って来てもいいよね」

アルミン「僕に確認しないでよ…ていうか、アニはこの状況になんも思わないの?」

アニ「いや、だって、エレンでしょ?ユミルの好意に気付くわけ無いじゃん。だから、危惧する心配すらない」

アルミン「そ、そっかー…」

ミカサ「アニ。あなたは中々見どころがある。その意見は妻である私も賛成する」

アニ「…妻?」ピク

ミカサ「…何?」

アニ「…いや、いつからあんたがエレンの妻になったの?ねぇ、教えてくんない?」ズズズ

ミカサ「9つの時。エレンは私に婚姻のマフラーをくれた。私の故郷では、マフラーはプロポーズの証、それをもらったということはもはや妻同然」

アルミン「えっ!? いやいや、聞いてないよそれ。ていうか、シガンシナ区や他の周辺区でもそんな風習聞いたことないよ!?」

アニ「へぇ… ちょっとミカサ、話があるんだけど、表出ない?」ズズズズズズズ

ミカサ「わかった。アルミン、後で合流するから、引き続きエレンを見張ってて」ゴゴゴゴゴゴゴ

アルミン「…うん」
アルミン(なんで僕が…)

アニ「早く来な。久々にキレちまったよ私」

ミカサ「えぇ、今行く」

アニとミカサは店から出て行く。

ドゴォォォォオオォォォンッッ

出て直後、激しい轟音が付近に鳴り響く。

ユミル「…? なんだ、外が騒がしいな」

エレン「あぁ、なんだろうな」

ユミル「ま、いいか。…そんなことより…ほ、ほら、次行くよ!冷めちまうだろ!///」

エレン「あ、あぁ!来い///」ゴクリ

胸焼けがするくらい甘い時間が、そんな轟音をもかき消してしまう。
二人前の大きなオムライスを食べ合いっこでたい上げるまで、外の轟音は止まなかった。

二人は昼食を済ますと、ラプンチェルを離れて、再び露店街へと戻る。

エレン「ふぃー…結局、食べ合いっこで全部食べたから時間食っちまった…」

ユミル「でも、なんか美味かった気がするな」

エレン「あぁ、ま、まぁ、好きな奴と一緒に食ってるから、かな」

ユミル「す、好きって…/// ふんっ、ほら、さっさと次をエスコートしろよな!」

エレン「お、おう!/// って、さっきからユミルにエスコートされてる気が…」

ユミル「うるさいね! ほら、行くぞ!」

ブラブラと露店街を歩く二人。
時間はもう二時を過ぎていた。

エレン「そういえば、ユミルってさ。あんまりアクセサリーしないよな?」

ユミル「まぁな。私なんかに似合うわけねぇからな」

エレン「そんなことねぇよっ、ほら、こっちこいよユミル」

エレンはユミルを引っ張って、アクセサリーを売っている露店にまで来る。

エレン「ほら。これなんかどうだ?」

エレンはひとつのアクセサリーを手に取り、ユミルに渡してみる。

ユミル「これは、百合?」

エレンが渡したアクセサリーは、百合の花の造花を材料にした髪飾りである。

エレン「あぁ、百合だ。前から思ってたんだ、お前って百合の花が似合うってさ」

ユミル「そうか…わかった、つけてみてやるから、感想言えよ///」

エレン「おう///」

ユミルはエレンから手渡された髪飾りを自分の髪にセットしてみる。
百合の髪飾りをつけたユミルは、白いドレスとマッチして、かなりの見栄えである。
エレン「おお…」

ユミル「つけてやったぞ、どうだ?」

エレン「可愛い…やべぇ、すっげぇ可愛いぞユミル!」

ユミル「!…そう、か…えへへ…」ニコ

エレン「」ドキ

エレン(笑ったユミル可愛い…)

結局露店のおじさんにお会計をして、百合の髪飾りを買うことにした。
そして、そのまま髪飾りをユミルにプレゼントして、再び二人は露店街を歩き出す。、

エレン(しかし…今日のユミルはなんか…普段より凄い可愛い…)

ユミル「な、なんだいエレン。ジロジロみて…」

エレン「なんかさ…言いそびれちまったけど、今日のユミルってすげぇ可愛いな」

ユミル「またそれかい! チッ、可愛い可愛いって馬鹿の一つ覚えみてぇに言っても嬉しくねぇよ私は!」///

しかし、まんざらでもない表情である。
プラスの褒め言葉は、何度言ってもいい気分になることは読者諸君もわかるだろう。
それが普段いわれ慣れていない言葉を、真剣に何度も言われたら、誰だって嬉しくなる。
それはユミルもまた同じだった。

エレン「いやいや!マジで可愛いって! なんかいつもと雰囲気違うし、服だって似合ってる。あまり考えたことなかったけど、お前ってワンピース系の服も似合うんだな…」

ユミル「そ、そうか。これはクリスタが勝手に見繕っただけで、私はよくわかんねぇんだ」

エレン「マジマジ。それに化粧もしてるだろ?スッピンでもかなりキレイだったけど、化粧するとまた印象が変わるなぁ…さっきプレゼントした百合の髪飾りと全体がマッチして、すっごく可愛いぜ!」

ユミル「/// う、うる、せぇ…///」

ユミル「で、でもな。人に見繕ってもらったとはいえ、私がこういう格好するのは、お前の前だけだ///」

エレン「そっ、か」ドキッ

ユミル「…エレンもなんかさ、かっこいいと思う」///

エレン「お、おう。あんがとな/// まぁ、お前と同じでアルミンが見繕ったんだけどな」

ユミル「はは、じゃあ、私とエレンは借り物カップルだな」

エレン「たしかに、ははは」

二人は笑い合い、露店街をぶらぶらしていく。
アクセサリーショップの次は、フラワーショップ、文具店、雑貨、洋服屋…etcetc、色々な店を見て回り、あっという間に日は暮れて、夕方になってしまう。
結局、帰り道の兼ね合いから、元の時計塔へ戻り、兵団基地へ向かうことにした。

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午後五時半。時計塔。
エレン「はぁ、もう夕方か…あっという間だったな」

ユミル「はは、たしかにな。私はこういうの初めてだったから、新鮮だったぜ」

エレン「俺もだ。デートできるなんて今まで微塵も考えてなかったしな」

ユミル「ったく、その割にはよくまぁ臭いセリフを吐きまくってくれたな。調子狂うぜ」

エレン「いいだろ別に。可愛いのも、好きなのも本当なんだし…」

ユミル「またそれかよ……まぁ、しねぇけどさ…///」

二人は時計塔の前まで来ると、ベンチに座った。
しばらく沈黙があった後、ユミルが口を開く。

ユミル「……あの、さ。告白の答え、なんだけどさ」

エレン「………あぁ」ゴクリ

ユミル「……エレン、お前は本当に私でいいのか?」

エレン「あぁ!もちろんだ!」

ユミル「そうか……ここ最近ずっとお前からのアプローチがうぜぇのなんのって思って……けど、真剣なのはすごく伝わった…だから、OK出してもいいんじゃねぇかなってのも思った…けど」

エレン「…けど?」

ユミル「けどな…正直、怖いんだ。お前の周りにはすごく可愛い女がわんさかいるじゃねぇか。アニやミカサ、クリスタ、ミーナ。皆、今まで見たことないくらい美人だ。…あんたは本当に、私でいいのか?こんなドブネズミみたいな女で」

エレン「お前だからいいんだよ!なんでそこでアニやミカサが出てくるんだ!アニは気の許せる同僚だし、ミカサは家族だ。あくまで、そこ止まりで、俺にはもうお前しか見えないんだ」

ユミル「そうか…。でも、それだけじゃないんだ。私はお前にまだ教えてない秘密がある、過去に色々あって、そっから幸せになろう!足掻いてやる!ってここまできたけど、未だ私は過去の柵に、己の秘密に縛られている…ッ!」

ユミル「初めはお前のこと、とんでもねぇ甘ちゃんのキチガイ野郎だと思った。けど、在団中は口だけじゃなく、行動で示していた。お前の理想は素晴らしい、そしてその行動力も尊敬に値する…けど、そんなお前だからこそ、私の秘密はお前を絶対に不幸にするッ! 過去に囚われる気もないし、引き返す気もない! けど、秘密はいつかバレるもんなんだ。どんな秘密だろうとな…だから、例え一時的に幸せになれたとしても、私は意に反して、いつかお前を裏切る…絶対に…だから、怖いんだ。お前と付き合うのは…」

エレン「…それじゃぁ、お前が恐怖していることが全部なくなれば、問題ないのか…?」

ユミル「あぁ、そうだ。…しょ、正直、お前に褒められて悪い気はしなかった。付き合ってもいいって思った……けど、私は…!」

エレン「わかった…じゃぁ、俺がお前の恐怖を取り除いてやるよ!!」

ユミル「取り除くって、そんなおま…んぐっ!?」

ユミルがエレンに反論しようとしたところで、エレンはユミルの唇を強引に奪う。

ユミル「ぷはぁっ…て、てて、てめっ!何、なな、何しやがる!!/// き、キキスするなんて…!」

エレン「好きだからだ!俺はお前が愛おしいからキスしたんだ!」

ユミル「は、はぁ? お、おま、話聞いてたのか?! お前を裏切ってしまうかもしれないんだぞ!」

エレン「んなこと知るか! 裏切るとか、そんなのは問題じゃねぇ!そんな先のこと考えたってしょうがねぇだろ!今、この瞬間が大事なんだ!先のことはなってから考えろ! 一回しかいわねぇから、よく聞けユミル!! たとえこの先裏切る結果になったとしても、俺はお前を好きでいてやる! これまでも、これからも、俺はお前の事しか見ねぇし、絶対に疑わない!信じ愛し続ける!」

ユミル「なっ…!」///

エレン「だからッ、俺の彼女になってくれ!!」

ユミル「///」ボフッ

ユミル「ほ、本当に、いいのか…?」ジワ

エレン「あぁ、本当だ。幸せになりたいんだろ?だったら、俺と付き合おう! 一足先に、幸せになろうぜ!」

ユミル「うん…うん…っ…わ、私は…」ポロ,ポロ

エレン「ちょ…なぜ泣く…」

ユミル「うるせぇなッ、嬉しいんだよ察しろ…! あぁ、わかったよ。てめぇと付き合ってやんよ!どうなっても知らねぇからな!」ゴシゴシ

エレン「あぁ、よろしく」

ユミル「へへ… じゃぁ、改めてキスするな」

エレン「ええ!? またするのか…!」///

ユミル「もちろんだエレン!私だけ恥ずかしい思いさせて、お前だけしないのは不公平だ。行くぞ!」

エレン「ま、まてっ、まだ心のj…んぶっ」

ユミル「ちゅっ…ちゅっ…れろ…んっ…んんっ…」

エレン「…!? ………っ!?」

ユミル「ぷはっ! へへ、どーだエレン!大人のキッスをかましてやった感想はよっ」///

エレン「ぶふぁっ! おま…おまぁっ/// 舌、舌が…!///」

ユミル「だはは、なんだエレン。真っ赤じゃねぇか」

エレン「だ、だって、おま! お前だって赤ぇし! なんで余裕あんだよ!」

ユミル「ふん。照れ隠しだよ、ばーか。余裕なんてあるわけねぇだろ」

ユミル「けど、…これで私たちは恋人だ。悔しいけど、さっきの告白はグッときた。絶対手放すんじゃねぇぞ」ニコ


こうして二人は晴れて付き合うこととなった。
この先、どんな困難が待ち受けてるかはわからない…けど…

ユミル(正直、私に恋人ができるなんて思わなかった…。幸せになろう、そう思ったけど、それは私が一人、金持ちになって、惰性の中で裕福に暮らすイメージだった…)

ユミル(けど、これからは違う…!私にはエレンがいる。エレンは私を愛すと言ってくれた、裏切ったとしても、絶対に気持ちが変わらないと誓ってくれた!)

ユミル(この先どうなるかなんてわからねぇ! けど、きっと大丈夫だと思う。もうエレンの一方通行でなく、私もエレンが大好きなんだからな!)


ユミル「別れたいっつっても、別れねぇからな!覚悟しとけよエレン!」

エレン「ハッ、望むところだ!一緒に歩いてこうな!」

ユミル(絶対幸せになってやる!エレンと一緒にな!)

きっとこの二人なら大丈夫だろう。
巨人が世界を支配し、人類がそれに抗う世界。
けれど、このふたりなら、どんな困難も乗り切っていけるだろう…!

ミカサ「」

アニ「」

アルミン「し、死んでる…」

う、うん…
きっと、乗り切っていけると思うぞ!がんばれ!


おしまい。





[コメント]
後半gdgdしちゃったけど、ユミルが好きすぎて、偉い長いの書いた
文章書くの苦手なくせに頑張ったとおもう。
少しでも、誰かがユミルフェチになってくれたら嬉しいれす(^q^)ソバカスオイシイ

一応、後日談も考えてるよ(ボソッ


[執筆日]
2013.06.19